『テンペスト(上) 若夏の巻』[池上永一/角川書店]【amazon ・ boople ・ bk1】
『テンペスト(下) 花風の巻』[池上永一/角川書店]【amazon ・ boople ・ bk1】
『天魔の羅刹兵 蒼月譚』[高瀬彼方/幻狼FANTASIA NOVELS]【amazon ・ boople ・ bk1】
『魔女の戴冠 I』[高瀬美恵/幻狼FANTASIA NOVELS]【amazon ・ boople ・ bk1】
『よつばと!8』[あずまきよひこ/電撃コミックス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『三国志群雄伝 火鳳燎原7』[陳某/MFコミックス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『同日同刻 太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日』[山田風太郎/ちくま文庫]
その点、太平洋戦争は、日本人ひとり残らずが、好むと好まざるにかかわらず、あえて指導者といわず、神か悪魔かの一本の指揮棒によって動かされることを、なんびともまぬかれなかった怖るべき時代である。――それでも、さまざまの記録を読むと、人々は千姿万態の様相を見せている。 ――「まえがき」(p.4)
「読書の夏」、リスト消化10作品目。太平洋戦争開戦日の昭和16年12月8日、そして終戦までの昭和20年8月1日から15日までの15日間。当時人々が何を考え、何をしたのか(あるいはしなかったのか)、当時の公文書や個人の手記など数多の記録を選り抜き繋ぎ合わせて、「太平洋戦争」を再現したノンフィクション。なお、作者評価は日記系と同じで「採点不能」。
開戦の日のいっそ無邪気なまでの高揚感と、敗戦の日に至るまでの惨とした日々。その中で生じる政治家たちの駆け引きやどんな状況でも営まれている一般庶民の生活など。それが主観的な日記であろうと「同じ日についての記録」という共通項で括られることで、単に「太平洋戦争」の一要素・一側面と化し、当時の混沌とした世相が客観的に多層的に浮かび上がってくる。その構成の妙に唸らされます。
感想を上手く言葉にできないのですが……ただの記録の羅列に止まらない、紙上に再現された「戦時」の静かな凄味に圧倒されることが多々。歴史の流れの中で生じた様々な「皮肉」に、なんともいえない思いがすることもしばしば。「事実は小説よりも奇なり」という言葉ではまだ足りない、「とにかく凄い」と思わされる一作。……下手に左右どちらにも意見が偏っていない分、この本から何を読み取るかも千差万別なんだろうなぁと、少ししみじみ思う。
0808購入メモ(その3)。
『ユージニア』[恩田陸/角川文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『ラス・マンチャス通信』[平山瑞穂/角川文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『ものがたり水滸伝』[陳舜臣/中公文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『世界の歴史9 大モンゴルの時代』[杉山正明/中公文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『竜岩石とただならぬ娘』[勝山海百合/MF文庫ダ・ヴィンチ]【amazon ・ boople ・ bk1】
『へうげもの 7』[山田芳裕/講談社モーニングKC]【amazon ・ boople ・ bk1】
『精霊の守り人 三』[藤原カムイ/ガンガンコミックス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『野望将軍(上・下)』[笹沢左保/集英社文庫]
「順風満帆におのれの身を任せておっては、ただ退屈するだけのことじゃ。荒波にぶつかることを恐れておっては、天下は取れまいぞ」
「ごもっともにございます」
「いま仮に、天下取りも難しくない勢威盛んな武将が、現れたといたそう。それなる武将に、わしは逆らおうとするであろうか。その答えは、否ということになる。わしはそれなる武将に従い、忠義を尽くす。しかるのち、それなる武将が天下に君臨いたさんとするときを見計らって、わしは謀叛により敵方に立つ。それなる武将を討てば、代わって天下はそっくりわしの手にはいる。それが野望の妙味、野心のおもしろみというものぞ」――強敵出現(『野望将軍(下)』 p.38)
「読書の夏」、リスト消化9作品目。戦国時代の武将で乱世の梟雄としても有名な、松永弾正久秀の生涯を描いた作品。どーでもいい話ですが、私が戦国武将の中で妙に久秀好きなのは、この本の影響がかなり強いです。つーか、大河とかでやってくれたら面白いのになぁと常々思う(←多分よほど題材に困らない限り無理)
先日感想を書いた「ふたり道三」も乱世の梟雄として同じく名高い人を題材にした作品でしたが、あっちを変化球とするならこっちは直球ストレート。「松永久秀」と聞いて大多数の人が連想するだろうオーソドックスな人物像を基本に、ある意味で信長の先駆者と言っても過言ではない、合理主義・現実主義的な人物として描かれています。
上巻は久秀が奇縁によって三好家に召し抱えられたところから、三好三人衆と堺でいざこざを起こすあたりまで、平たく言えば信長の台頭前。敵対者はもとより、自身を取り立ててくれた相手であろうとも最終目的の邪魔になるならば容赦しないという、その思考の冷徹さ。武士として着実に力を蓄え、機を逃さずにのし上がっていく――つまりは三好家の内部を喰いものにし実質的に乗っ取りを果たしたり、衰えたりといえど武家社会の頂点・足利幕府の将軍殺しを実行してのけたりする過程で仕掛けられる謀略の数々が、実にえげつなくて面白い。
そんなわけで、上巻はまさに絶好調な久秀ですが、下巻になって信長が舞台に登場してから徐々に雲行きが変わっていきます。表向き信長に服従してからもその反骨精神が衰えることは全くなく、いろいろと策を巡らし反旗を翻したりもしているのですが……なんというか、時勢には逆らえないよね、みたいな。内心では信長を見下しているのに、反旗を翻しても思わぬ要因から頓挫してしまうばかり。そうこうするうちに信長とは歴然とした差がついていき、次第に焦燥に駆られていく様子に、久秀の衰退ぶりを思わずにいられません。とはいえ、最後の最後、追い詰められての一戦に至るまで、本文中で描かれる彼の姿に悲壮感はなく。むしろ、最期まで自分の望むように生き抜いた男として、なんとも小気味のよい印象ばかりが残りました。
『青猫屋』[城戸光子/新潮社]
「お時さんの歌も悪意の歌だった?」
《否。悪意では無い。逆襲の歌と私は聴いた。見事な逆襲の歌であった》
遥か遠い記憶から歌を探り出そうとするかのようにしばらく沈黙したのち、メモ・パッドは続けた。
《お前も知っている通り、判定の基準はどちらの歌がより永く生きて愛唱され続けたかと云う事だ。仁多山氏は云うまでもなく歌い広めることに奔走していた。勿論、前編は誰も異論を挟めない程の傑作。覚えて歌うには些か長過ぎるという欠点は有ったがね。私は何度も地蔵祠にお時嬢を訪ね、あの短くも熾烈な歌を歌い広めるよう勧めた。しかし、お時嬢は二度と歌わなかった》 ――(p.142)
「読書の夏」、リスト消化8作品目。第8回日本ファンタジーノベル大賞、優秀賞受賞作品。
誰もが歌を創り歌い耽溺する町を舞台に、人形師であり、同時に特定の誰かを傷つける「瘤」を取り除き歌殺しを為す「歌瘤士」でもある「青猫屋」の4代目当主廉二郎が、亡父が立会人を務めた48年前の歌試合の判定を依頼されることから始まります。しかし、その歌試合で歌われたという一方の歌は傑作として今でも知られているものの、もう一方の歌が行方不明。廉二郎はその歌を探し始めるが、調査の過程で意外な事実も明らかになっていき……というのが本筋の流れ。その本筋とは別に、歌試合を行った2人の老人それぞれが現在置かれている状況、青猫屋の手伝い小僧・頓痴気が廉二郎の作った「特別なキツネ」を手に入れようとする様子、そして町に存在する奇妙なモノたちが一ヶ所に集っていく様子等が並行して描かれていきます。……余談ながら、脇の話の差し込み方というか転換の激しさは、作者の人がもともと舞台関係の人だからなのかしらと思ったり思わなかったり。
で、それらの話がどのように絡んでくるのだろうとのんきに読んでいたら、全てが一点に集中したそのとたんに、まるで雪崩のように一気に破局が押し寄せてきて唖然とする。後味が悪いというのとはちょっと違う、唐突にぽんと宙に放り出されてしまったような、ものすごく不思議な読後感。
……まぁ正直なところを言えば、何度読み返しても今回久しぶりに読み返しても、やっぱりラストの流れがよく理解できないよこの話と頭を抱えてしまうのですが(←駄目駄目) その一方で、個性的な登場人物や小道具が渾然一体となって作り上げた、日本のようで日本でない不可思議な世界の雰囲気に、なんとなく惹かれてしまう。万人にオススメ、とはちょっと言いにくいけれど、個人的には不思議と気に入っている一冊。
とにもかくにも、この独特の幻想世界を生み出した作家さんが、次はどんな作品を読ませてくれるのか。2作目が発表される日が来ることを楽しみにしていたのですが……2005年、病気のため永眠なさったとのこと。合掌。(ちなみに、遺稿がこちらのサイトで公開されています)