『カラクリ荘の異人たち2 お月さんいくつ、十三ななつ』[霜島ケイ/GA文庫]

 「あちらとこちら」が混じり合う場所、空栗荘を舞台にした、少年の心の成長物語、第2巻。「薄売り」と「夢の交い路」の二本立て。

 ずいぶん久しぶりの続編で正直登場人物の設定とかもほとんど忘れていたんですが、読み進めるうちにあーそうそうこういう雰囲気&設定の話だったなぁとだんだん思い出していったので結果おーらい。とりあえず1巻同様、「あちら」と「こちら」の近くて遠い距離、その雰囲気が理屈というより感覚として伝わってくるような描写が好みだなーと思いました。

 今回収録されている2編はどちらとも派手な展開はないのですが、その分じんわりくるものがありますね。「薄売り」では、太一の「ありがとう」に対する采菜の言葉に、この子は良い子だなぁとつくづく思った。太一があんな感じなので前途は多難そうですが、まぁ頑張れ女の子(笑) 続く「夢の交い路」では、「薄売り」から眠ったままの大家さんをなんとか起こそうとそれぞれが奮闘(?)することになるのですが……終盤に明かされたあれこれが切なくて仕方がなかったです。そして、古都子さんの「逃げ場にしてはダメ」という言葉が、年長者の言葉としてとても厳しく、同時にとても優しいものとして胸に沁みました。
 しかし、この二つの話を通じてなにより嬉しく感じたのはやはり、過去のトラウマから違う場所にしまいこまれてしまった太一の感情が、ゆっくりでも着実に戻ってきている様子、それに伴い太一自身が成長している様子が伝わってくることですねー。おにぎりを作る場面とか、しみじみと良かった。

 さて、夏祭りの次は中秋の話になっていましたが。順番に行くなら、3巻は冬の頃が舞台になるのかな。なんにしろ、次はどんな話が紡がれるのか楽しみに、のんびり3巻を待とうと思います。

作品名 : カラクリ荘の異人たち2 お月さんいくつ、十三ななつ
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著者名 : 霜島ケイ
出版社 : GA文庫(ソフトバンククリエイティブ)
ISBN  : 978-4-7973-4914-6
発行日 : 2008/8/15

WordPress2.6.1にアップグレード。

今回は大幅な変更はなかったようですが、タグ重複バグの解消他、細かいバグの解消があったようなので。
あと、管理画面でアップデートできますの表示が出続けるのが鬱陶しいし(←これがこまめにアップグレードする一番の原因だったりする)
本体ファイル変更のメモ書きは、今回は2.6のときと全く同じ箇所なので省略します。

『マーベラス・ツインズ契2 めぐり逢い』[古龍/GAMECITY文庫]

 『絶代雙驕』邦訳第5巻。今回は江別鶴の化けの皮を剥ごうとあれこれ画策する小魚児や、鉄心蘭と行動を共にする中で次第に心を動かしていく花無缺、そしてある出来事をきっかけに2人の関係に大きな変化が訪れる様子などが描かれています。ちなみに、原書の64章序盤あたりまで消化。

 とりあえず前半の見どころは、江別鶴と慕容家を相対させようとあれこれ画策する小魚児の奮闘ぶりですね。十大悪人の一人白開心まで駒として策謀を巡らす姿は、さすが天下の悪児という感じ。しかし、完璧に思えたその計画が思わぬところから狂いを見せていったことで己の未熟さを、さらに慕容家との決闘で江別鶴の代理を務めた花無缺のヒーローとして完璧に近い対応を見せつけられたことで、彼との差を改めて思い知らされるという展開が、なかなか主人公にも甘くなくて面白いなーと思います。一方、花無缺については、鉄心蘭と共に過ごす中で移花宮で凍らせていた自身の心が融けはじめ、人形としてではなく人としても成長している様子が伺えるのが良い感じ。そんな彼が、「彼女を好きになってはならない(宮主に殺されてしまうから)」と自身を戒めつつ、小魚児を想う鉄心蘭へ掛ける言葉の数々はなんとも切ないです。
 で、そうこうしている最中に、小魚児と悪人谷を出てきた育ての親5人との再会が。……普通なら感動の再会劇となりそうなところが、単純にそういう雰囲気にならないのは彼らの性格上仕方がないですね。まぁでも、燕大侠の影にびくびくしている様子とか小魚児に見せる微妙に甘い態度とかはちょっと笑えましたが。しかし、そんなほのぼの気分も吹き飛ぶ欧陽兄弟への仕打ち。こういうところを見せつけられるとやっぱり彼らは悪人揃いだよなーとしみじみ思いつつ、これが小魚児の心にとって大きな転機となったのはまぁ救いといってもいいのかな。
 あと、各方面に波紋を呼んだ燕大侠の再登板。彼絡みでは、誤解からいきなり結婚させられかける花無缺と鉄心蘭の2人や、遠目にその姿を見ただけで震えあがる江別鶴、そして武芸では今まで他に後れを取らなかった花無缺が圧倒される様など見どころはほぼ全部なのですが、一番印象に残るのはやはり、倒れた花無缺を庇う小魚児&その後のやりとりですかねー。小魚児の成長を目の当たりにして、なんとも感慨深かったです。あとこれで、もう少し女心が分かればいいのにねぇ、としみじみ思った(ないものねだり) ……それにしても、おおまかにしか展開が分かってないだけに、細かい部分でああそうかーここでちゃんとそういう描写があったのかーと気がつくこと多々だったりする今日この頃(←せっかく原書買ったんだから、もうちょっと気合い入れて読もうよ自分)

 さて、期間限定で「友人関係」になった小魚児と花無缺の前に、次はどんな難関が待ち構えているのか。それが語られる次巻は10月とのことで。江別鶴親子の陰謀卑劣云々というなら、75章あたりまでは行くのかなー、まぁ今のペースだとちょうどあのあたりでヒキってところかなーと勝手に納得しつつ、この先もまだ増える登場人物たちの出番も合わせて、楽しみに待ちたいと思います。……でも、今一番出番を待ってる某人の出番は、多分その次の巻ぐらいになるんだよなぁ(遠い目)

作品名 : マーベラス・ツインズ契2 めぐり逢い
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著者名 : 古龍(川合章子:訳)
出版社 : GAMECITY文庫(コーエー)
ISBN  : 978-4-7758-0674-6
発行日 : 2008/8/19

『BH85 青い惑星、緑の生命』[森青花/徳間デュアル文庫]

 第11回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作の復刊。ちなみにこの時の大賞は宇月原晴明氏。
 どういう風に内容を表現すればいいのかとても困るんですが、端的に表現するならなごみ系地球破滅小説ということになるんでしょうか。……矛盾した単語がくっついてるように見えますが、事実そうとしか表現しようのない内容なんだから仕方がない。読みながら、こういうちょっと変わった作品が世に出してくれることが数年前までのファンノベ大賞の魅力だったんだよなぁ……としみじみ思った。いや別に最近の作品が悪いというわけじゃなく、なんというか良くも悪くも「普通」の賞になってると思うのですよ。

 愚痴はさておき。あらすじは、異動を命じられたとある製薬会社勤務の研究者が、起死回生を図って新製品の中に1本だけ紛れさせた開発段階の育毛剤「BH85」。それがひょんなことから地球規模の大変事を発生させてしまう……というもの。設定的には悲壮感や絶望感があってもおかしくないというかないと嘘だろうという感じなのですが、本文中にはそれらがほぼ皆無。奇妙なほどの緊迫感のなさにつられて、気楽にさっくり読めてしまいます。軽いばかりではなく、「意識の在り方」についての洞察など軽く哲学っぽい要素もちりばめられていて、それがまたこの作品の不思議な面白さを補強している感じ。
 で、新種の生命体(作中では最終的に「ネオネモ」と呼ばれるようになる)がものすごい勢いで地球上の全生命体と融合していく中、一定の確率で取り残された人々は別にネオネモと戦うでもなく、流石に何度かはパニック状態になるものの、もうこれはどうしようもないよねーみたいなノリでそれぞれ状況に適応して生活したりネオネモへ接していく様子が、なんともいえない独特の味に仕上がっています。

 まぁこういう形の終焉(?)というのもそれはそれでありかもね、みたいな気分になる、最後までとぼけた雰囲気の話でした。

作品名 : BH85 青い惑星、緑の生命
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著者名 : 森青花
出版社 : 徳間デュアル文庫(徳間書店)
ISBN  : 978-4-19-905184-5
発行日 : 2008/8/6

『ヴぁんぷ!IV』[成田良悟/電撃文庫]

 一癖も二癖もある吸血鬼と人間たちが繰り広げる饗宴、久しぶりの第4弾。今回は話の主舞台がグローワース島から本土に移動することも手伝って、作品世界が大きく広がった感がありますね。

 正直、ここしばらく成田氏の作品はちょっとパワーダウン気味というか、祭りの準備段階が長すぎで結果的に一冊一冊の盛り上がりが中途半端になってるような印象があったのですが、今回はラブありシリアスあり、何気に結構酷い内容なんだけどでもあまり重くはなりすぎないという絶妙な塩梅で、単純に面白かったーと思いました。悪ノリしまくりなネタ部分も笑えたし。
 キャラクター関連では、とりあえず大量に登場&巻末のキャラクター紹介で扱われた組織の面々はそろってキャラが濃すぎると思います(笑) ……某幹部の脳内音声が某ソフ○バンクCMのお父さんの声で固定されたのはきっと私だけじゃないと信じたい。あと、インフレ防止用の「無」の設定は、インフレ防止になってないんじゃないですかそれ、と全力でツッコミいれたくなりました。えーとそれから、今回メイン級の扱いだったミヒャエルとフェレットは、これまでとあまり変わっていないようででも微妙に確実に進展している様子にニヤニヤ。ルーディーは……えぇと、まぁそのうちきっといいことも多分あるさ、と慰めの言葉をかけてあげたくなったり。

 さて、5巻は島に残った面々が遭遇した事件の話になるようで。あとがきによれば市長が主役級とのことなので、いったいどんな話になるのか今から楽しみです。

作品名 : ヴぁんぷ!IV
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著者名 : 成田良悟
出版社 : 電撃文庫(メディアワークス)
ISBN  : 978-4-04-867173-6
発行日 : 2008/8/10