さまざまな時代、さまざまな地域、さまざまなジャンルを含むこの叢林は、遠目には散策に向かないように見えますが、ちょっと近づいてみると、分け入って多彩な果実をもぎとり味わえる、いくつもの道筋を見つけることができます。本書は、各分野の練達の読み手にそうした道筋の地図を例示してもらう案内記です。 ――「はじめに」(p.7)
「読書の夏」、リスト消化12作品目。大学などでアジア大陸関係を専攻したなら、一度はお世話になったことがあるんじゃなかろうかという「古典の宝庫」東洋文庫。そこに収められている数多の書籍の中から、12人の研究者がそれぞれの専門分野でここは押さえておきなさいという書を選んで紹介しているガイドブックでもあり、愛読者が思い入れのある本や単にオススメな本を語ったエッセイ集のようでもあり。(ちなみに、第2巻も発売されてます) いろんな意味で、麻薬のような本。
もともとの企画の時点でそういうコンセプトだったのか、堅苦しさはほとんど感じられず、諸先生方が自由に楽しげにお気に入りの本について語っているという雰囲気に、本来守備範囲外の本でも、どんな本なんだろうかと興味を揺り動かされてしまいます。あと、併載のページ数にして113ページほどに及ぶ書籍目録(700冊分)。これにざーっと目を通しているだけでも、いろいろと妄想……もとい、想像をかきたてられて陶然としてきます。で、陶酔状態に陥ってついぽちっと購入した本が何冊あることか……いや、別に後悔はしてないんですが。期待に違わず面白い本が大多数なので。でもやっぱり、財政に響くんですよねーお値段的に(なんとなく遠い目)
『おんな牢秘抄』[山田風太郎/角川文庫]
大岡越前の娘・霞が、父親との口論をきっかけに「姫君お竜」と名乗って小伝馬町の女牢に潜入。既に死罪が申し渡されている6人の女囚に接触し、彼女たちに掛けられた嫌疑を晴らしていくという、痛快捕物小説。ちなみに作者自己評価は「C」。……いやだから、このレベルでCって(以下省略)
奉行所で詮議も行われてそれぞれもっともらしく決着している6つの事件。しかし、霞=姫君お竜はまだ探りきれていない事情があるのでは、と女囚たちから直接話を聞いては疑問や矛盾点を見つけだし、事件の真相を暴いていく、というのが各短編の基本構成。トリックはあまり凝ったものではありませんが、抜群の巧さを誇る話の組み立て方に自然と惹きこまれてしまいます。もちろん、作中で語られる女たちを絡めとり罪人に落とした周到な仕掛けが解体されていく過程は、どれもが標準以上の面白さ。加えて、物語の主人公たる霞の天真爛漫な性格や八面六臂の活躍、そして時折顔を出す乙女な表情が物語を盛り上げるのに一役(以上)かってます。
また、単なる短編集ではなく、作者お得意の連鎖式でもあるこの作品。一見バラバラに見える6つの事件の背後に別の思惑が見え隠れすることや、各々の事件にある一つの共通点があることは割と早い段階で判明するのですが、それらがどういう意味を持っているのかは謎のままで話が進んでいき。終盤に至って、その共通点の謎解きから世間を騒がせた大事件へと話が繋がっていったときには、なるほどそうくるかと思わず膝を叩きました。
全ての謎が白日のもとに晒されたのちに用意された、霞が悪人たちに天誅を下す短くも熾烈・華麗な大立ち回りは爽快のひとこと。そして迎える終幕はなんとも微笑ましさを感じさせるハッピーエンドと、最後まで楽しめる一冊です。
ところでこの作品、現在『花かんざし捕物帖』というタイトルでコミック化進行中。コミック版はおおむね原作に忠実に進んでいるのですが、ある一点に関してはアレンジが加えられています。果たしてこのアレンジが、原作の「あの場面」でどういう効果をもたらすのか。楽しみなような怖いような、ちょっと微妙なところです。
0809購入メモ(その2)。
『紅蓮の翼 暁を招く神鳥』[小柴叶/B’s-Log文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『フェル・ルトラウスの珠 赤竜と目覚めの王子』[夏目瑛子/B’s-Log文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『赤いくつと悪魔姫』[清水マリコ/B’s-Log文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『宇喜多直家』[高橋直樹/人物文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『魔王』[伊坂幸太郎/講談社文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『お隣の魔法使い 語らうは四季の詩』[篠崎砂美/GA文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルと白銀の虎』[あざの耕平/GA文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『wonder wonderful(上)』[河上朔/イースト・プレス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『wonder wonderful(下)』[河上朔/イースト・プレス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『江戸歌舞伎の怪談と化け物』[横山泰子/講談社選書メチエ]【amazon ・ boople ・ bk1】
『バジリスク 甲賀忍法帖(中)』[山田風太郎(原作)・せがわまさき/講談社漫画文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『死が二人を分かつまで 4』[前田栄/新書館ウィングス文庫]
強大な力を持つ吸血鬼と彼によって吸血鬼とされた青年の永遠の相克と、彼らに少なからず関わることになった人々の物語、第4巻にして完結巻。
最終巻にして、ヘンリー×J.C.のカップリングに思いっきりお布団の上でごろごろ転がりました。いや、これまでの話でも普通にお気に入りなカップリングだったけど、まさかまさか、ここまでの破壊力を発揮してくれるとは思ってもいなかったので、予想外の不意打ちにやられました。……とはいえ、冷静に読むと別にらぶらぶ描写が大増量というわけではないのですが。それでもなんというか、お互いへの控えめな信頼や執着、嫉妬めいた感情がものすごくツボにきた。一方、ミカエラとウォルフは……ミカエラの鈍感さに翻弄されるウォルフに、流石に励ましの言葉をかけてあげたくなりました。あの終幕の様子では、彼の想いが通じる日が来るのかと本気で気の毒になってしまったし(笑)
えーと、カップリング話だけで盛り上がるのもあれなので、本編の感想。エリオットとカールの戦いの結末は、意外なようなそうでもなかったような。この二人の結末は、もうこれしかなかったんだろうなぁ……と思いつつ、それでもなんだか切なかったです。あと、ヴァンパイアたちの故郷たる『根の国』や全ての始まりとなった2人、聖女やヘルシング一族の設定などは、最終巻でがーっと出てきた印象も拭いきれませんが、それでもなるほどねーと納得できる感じでした。で、今回やられ役で出てきたヘルシング一族は、なんかもうどうしようもないなあれ、としか言いようがないというか。2巻ではまだしもまともだと思ってたチャールズですらも、あれだったしなぁ……読んでて、本気で呆れてしまいました。
紆余曲折を経てエリオットとカールの戦いは幕を閉じ、舞台に残ったのは彼らの戦いに巻き込まれ思わぬ縁を結んだ4人。彼らがこの先どんな逃亡劇≒世界旅行を繰り広げるのか、その珍道中は想像するだけでも面白そうなので、是非とも読んでみたいのですが、流石に語られることはないだろうなー。ちょっと残念だけど、彼らが楽しく幸せに日々を過ごしてくれることを祈って。
2008年10月の購入予定。
毎月恒例、ほぼ購入確定組の備忘録。
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