『Under the rose 5 春の賛歌』[船戸明里/バーズコミックス]

ヴィクトリア時代の英国貴族の館を舞台にした物語、1年3か月ぶりの新刊。

今回はレイチェルの以前の勤め先でのトラブル(&それに付随する噂話)暴露などがあったものの、全体的には割と平和な雰囲気だったので、安心して読めました。……その分ここからの突き落としがあるんだろうなぁと、今から気が気じゃないわけですが。つーか、さっき目次見直して気がついたハウスパーティー始まってからの話のタイトルが「まぼろし」というのがまた意味深長……。
内容的には、メイドのメアリの良い人っぷりや子供たちの姿に和んだりしながら、「春」のメインと思われるウィルとレイチェルの関係と変化についても、しっかり描き込まれているという濃さで、堪能いたしました。しかし、双子のいたずらに対するウィルのしつけは強烈だった。まぁでも、手法はちょっと過激でも、あれぐらいしっかり叱ってもらえた経験というのはのちのちの糧になるよなーと思ったり思わなかったり。

あと、幻冬舎のサイトでダウンロード販売されている後日談『Honey Rose』も読んでみた。ライナス大人になったねぇとかその後のウィルとレイチェルの関係とかグレゴリーは変わってないなぁとか逆にヴィンス変わりすぎとかザックは実に素敵なキャラになったとかロレンスは反抗期ですかとか伯爵あの後もまだ子供作ってたのかとか色々衝撃でしたが、中でも終盤で登場したアルの姿には、思いっきり動揺した。いや、内面はあまり変わってないので安心したけど! で、明らかになった伯爵家の歪みの元凶だった人は、まぁ、予想通りだったので何とも。でも、あの人が協力していたのは吃驚だったかも。

作品名 : Under the rose 5 春の賛歌 【amazonbooplebk1
著者名 : 船戸明里
出版社 : 幻冬舎(バーズコミックス)
ISBN : 978-4-344-81171-3
発行年月 : 2008.3

『マーベラス・ツインズ2 地下宮殿の秘密』[古龍/GAMECITY文庫]

 『絶代雙驕』邦訳第2巻。一応原書を頑張って読んだので先の展開はなんとなく分かっているのですが(←なんとなくかよ)、それはそれとしてやっぱり楽しい。つーか、なんだかんだ言っても頭を悩ませなくても内容が分かるって素晴らしいよなぁとしみじみ思う今日この頃。
 あとはとりあえず、小魚児がまだまだ少年と言って差し支えのない年齢ということも影響してか、ほかの古龍作品に比べると明るい雰囲気だなーと思いながら読み進めました。いや、他の作品が暗いというわけではないんですが、他の話はなんというか、明るい中にも一抹の影があるというかくたびれているというか、そんな印象があったりするもので。

 個人的な戯言はさておき。今回の見どころは、十大悪人のうちの二人、蕭??と軒轅三光、そして江玉郎といった面々と小魚児のやりとりでしょうか。蕭??と小魚児の駆け引きはどう転がっていくのかが気になるし、軒轅三光は十大悪人の中ではあまり悪くない人だし(そうか?)結構ムードメーカーなところもあるしで、彼らとのやりとりは素直に面白く読めました。あと、小魚児とは違った意味で問題児(という一言で済むかどうか)な江玉郎。こいつは、状況に応じて態度が豹変する様子とか、今の段階ではまだかわいげがあるような気がしなくもないんですが、先を知っているとやっぱりちょっと、ねぇ?
 一方、現時点でヒロイン候補(?)な3人の小姐は今回終盤で鉄心蘭が登場したのみ。彼女たちの出番は、まぁ以降のお楽しみということでー。……それにしても、このあとに待ち構えている(以下思いっきりネタばれにつき自粛)な展開に対しては、唖然茫然となる人が続出するんじゃないかと思ったり思わなかったり。

 さて、あとがきで訳者の方もおっしゃっているように物語はまだまだ序の口、この先もいろんなキャラが登場してくるわけですが、次巻はどうやら過去話。1巻ではツカミが大切と思ったのか削られていた原作冒頭部分をここでやるのかな? なんにしろ、楽しみに待ちたいと思います。

作品名 : マーベラス・ツインズ2 地下宮殿の秘密
    【 amazon , honto
著者名 : 古龍(川合章子:訳)
出版社 : GAMECITY文庫(コーエー)
ISBN  : 978-4-7758-0656-2
発行日 : 2008/3/22

3月4週目の購入メモ。

『四畳半神話大系』[森見登美彦/角川文庫]【amazonbooplebk1
『DOORS II 新たなる敵を修繕せよ!』[神坂一/角川スニーカー文庫]【amazonbooplebk1
『身代わり伯爵の決闘』[清家未森/角川ビーンズ文庫]【amazonbooplebk1
『水滸伝 18』[北方謙三/集英社文庫]【amazonbooplebk1
『帝冠の恋』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]【amazonbooplebk1
『封殺鬼 鵺子ドリ鳴イタ3』[霜島ケイ/小学館ルルル文庫]【amazonbooplebk1
『桃夭記』[井上祐美子/中公文庫]【amazonbooplebk1
『〈本の姫〉は謳う 2』[多崎礼/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]【amazonbooplebk1
『Under the rose 5 春の賛歌』[船戸明里/バーズコミックス]【amazonbooplebk1
『へうげもの 6』[山田芳裕/講談社モーニングKC]【amazonbooplebk1
『怪・力・乱・神 クワン 7』[志水アキ/MFコミックス]【amazonbooplebk1

『明治十手架(下) 山田風太郎明治小説全集14』[山田風太郎/ちくま文庫]

 山田風太郎明治小説全集14巻&最終巻。表題通り、13巻から続く「明治十手架」(後編)の他、大津事件でロシア皇太子を救った俥夫たちの辿る運命を描いた「明治かげろう俥」、そしてホームズのパスティーシュである「黄色い下宿人」を収録。

 「明治十手架」は、投獄された原の命を狙う悪徳巡査・看守5人と、原を守ろうとする悪党たち5人の「けだもの勝負」と題される戦いが開始。超人的な技こそ出ませんが、どこか忍法帖を思わせるこの勝負、状況・能力的にはどうあがいても不利な悪党側がそれぞれに力を尽くして悪徳官憲たちを討っていく過程は、ただ圧倒的に面白いとしか言いようがないです。
 「明治かげろう俥」は、大津事件の際に犯人・津田三蔵を取り押さえた俥夫たちに焦点を当てるという、その着眼点だけでも面白い。津田の娘や俥夫の周辺の人々なども深く関わり流転していく彼らの人生には、綺麗事ばかりではない浮世のままならなさや悲哀を感じます。テーマ的には重いものもあるのですが、読後感はやるせなさは感じるもののそう悪いものではなかったりするあたりは、言うまでもなく作者氏の巧さなんでしょうねぇ。……つーか、なんでこれで作者自己評価がCなのか、割と本気で理解に苦しんでいるのですが……。
 「黄色い下宿人」は、あのホームズと某著名人(一応伏せるけど、読めば誰かはすぐ分かる)の夢の競演。もともとミステリ作家でもある作者氏ですから、ミステリとしての完成度はいうまでもなし。……まぁ、熱心なシャーロキアンの人が読むとどう思うのかまではわかりませんが。なお、某人が名乗るのは本当に最後なのですが、いろいろ知っていると途中の描写でにやにや出来てそれもまた楽しいです。

作品名 : 明治十手架(下) 山田風太郎明治小説全集14
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : ちくま文庫(筑摩書房)
ISBN  : 978-4-480-03354-3
発行日 : 1997/12

『明治十手架(上) 山田風太郎明治小説全集13』[山田風太郎/ちくま文庫]

 山田風太郎明治小説全集13巻目となる本作は、一連の明治小説の最後を飾った長編作品(前編)。どうでもいいけど、何気に12月からずっと山田風太郎作品の感想書いてるな……。

 主人公は、『地の果ての獄』にも登場した原胤昭。内容は、恩師の惨死をきっかけに、石川島監獄書記の職を辞した原が、ドクトル・ヘボンや恩師の娘である有明姉妹の勧めで出獄してきた元囚人たちの世話をしはじめる。しかし、彼と因縁のある巡査・看守にはその行動は目障りなものでしかなく、原自身の性格も手伝って幾度も対峙することに……というもので、原自身が若いころの出来事を語るという形式(ずっと一人称で進むわけではなく、途中で三人称に切り替わったりしますが)
 原と官憲の対決は、何度も煮え湯を飲まされ恨みを募らせていく官憲側が次はどんな手を使ってきて、それを原がどうやって撃退していくのかが単純に気になる感じ。一方、原と元囚人たちとの関係も必ずしも良好というわけではなく、原の未熟さからくる下手な対応によって袂を分かって出ていく連中もあり。
 そんな勧善懲悪とは言い切れない、悲喜こもごもな悪党たちとの丁々発止のやり取りを楽しむ話かと思いきや、ひょんなことから原がかつての勤め先でもある石川島投獄されることになってしまったことで雲行きが変わり……それまでの話との転換点となる「星の涙の降る夜に」は、あまりに静謐で、胸が痛くなるほどに哀切極まっています。同時に、それまでのエピソードがあの転換点、ひいてはその先の展開に至るまでの前振りだったことに素直に驚かされます。

 さて、風前の灯火となってしまった原の命。聖女の犠牲と引き換えに良心に目覚めた悪党たちは彼を守ることができるのか、というところで以下14巻収録分へ。

作品名 : 明治十手架(上) 山田風太郎明治小説全集13
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : ちくま文庫(筑摩書房)
ISBN  : 978-4-480-03353-6
発行日 : 1997/12