『明治十手架(上) 山田風太郎明治小説全集13』[山田風太郎/ちくま文庫]

 山田風太郎明治小説全集13巻目となる本作は、一連の明治小説の最後を飾った長編作品(前編)。どうでもいいけど、何気に12月からずっと山田風太郎作品の感想書いてるな……。

 主人公は、『地の果ての獄』にも登場した原胤昭。内容は、恩師の惨死をきっかけに、石川島監獄書記の職を辞した原が、ドクトル・ヘボンや恩師の娘である有明姉妹の勧めで出獄してきた元囚人たちの世話をしはじめる。しかし、彼と因縁のある巡査・看守にはその行動は目障りなものでしかなく、原自身の性格も手伝って幾度も対峙することに……というもので、原自身が若いころの出来事を語るという形式(ずっと一人称で進むわけではなく、途中で三人称に切り替わったりしますが)
 原と官憲の対決は、何度も煮え湯を飲まされ恨みを募らせていく官憲側が次はどんな手を使ってきて、それを原がどうやって撃退していくのかが単純に気になる感じ。一方、原と元囚人たちとの関係も必ずしも良好というわけではなく、原の未熟さからくる下手な対応によって袂を分かって出ていく連中もあり。
 そんな勧善懲悪とは言い切れない、悲喜こもごもな悪党たちとの丁々発止のやり取りを楽しむ話かと思いきや、ひょんなことから原がかつての勤め先でもある石川島投獄されることになってしまったことで雲行きが変わり……それまでの話との転換点となる「星の涙の降る夜に」は、あまりに静謐で、胸が痛くなるほどに哀切極まっています。同時に、それまでのエピソードがあの転換点、ひいてはその先の展開に至るまでの前振りだったことに素直に驚かされます。

 さて、風前の灯火となってしまった原の命。聖女の犠牲と引き換えに良心に目覚めた悪党たちは彼を守ることができるのか、というところで以下14巻収録分へ。

作品名 : 明治十手架(上) 山田風太郎明治小説全集13
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : ちくま文庫(筑摩書房)
ISBN  : 978-4-480-03353-6
発行日 : 1997/12

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