山田風太郎明治小説全集4巻目。『幻燈辻馬車』後半と、相馬事件を題材にした『明治忠臣蔵』、広沢参議暗殺事件を巡る『天衣無縫』、そしてとある誤解から最初の絞首台を作ることに執念を燃やす大工とその周囲の人々を描く『絞首刑一番』を収録。
『幻燈辻馬車』は、前半のオムニバス形式とは一転し、自由党壮士(≒過激派)と警視庁等との暗闘が前面に現れてきます。干兵衛も否応なくその流れに巻き込まれていきますが、そこに失踪していたお雛の母親が絡んできたり、自由党の中に潜んでいた意外な密偵たちが判明したり、果てには干兵衛の妻・お宵の死の原因となった男が判明したりと、物語は二転三転。様々な因縁が一旦の収束を迎える石川島監獄外での決闘場面はなんともいえぬ迫力。そして、ようやく静かな生活を手に入れた干兵衛の前に現れたのは……。ここからは、先の決闘とはまた異なる迫力があるというか……かつて死力を尽くした人間の意地と信念、そして彼らの思いを乗せて疾走していく馬車の姿に、粛然とせざるをえませんでした。
『幻燈~』以外に収録されている短編作品では、『明治忠臣蔵』が一番印象深いかな。かつて仕えていた相馬子爵が奸臣たちによって不当に監禁されているとして、彼の身柄を自由にしようと東奔西走する旧藩士の錦織剛清。彼と奸臣とされた相馬家家令(ちなみに、某有名作家の祖父)をはじめとする人々の戦いは、ある「事実」や予想外の出来事によって様々な展開を見せるのですが……嗚呼、いざとなれば女は怖い。その他、『天衣無縫』や『絞首刑一番』も、それぞれに運命の滑稽さあるいは皮肉さが生み出す悲喜劇とでもいうべき内容で楽しめます。