『幻燈辻馬車(上) 山田風太郎明治小説全集3』[山田風太郎/ちくま文庫]

 山田風太郎明治小説全集3巻目。他の明治物と比べると、「幽霊」が普通に登場して話にも絡んでくるという点で、伝奇色が強目の異色作といっても良い作品。

 主人公(というか狂言回しというか)は、元会津藩士・干潟干兵衛。会津落城の際に妻のお宵を、その後復讐の念にも突き動かされて参戦した西南戦争では息子を目の前で亡くしてしまい、今では東京で孫娘のお雛を傍らに乗せた二頭立ての辻馬車で生計を立てている干兵衛。いつの間にか親子馬車として人の口に上ることも多くなったこの辻馬車に乗り込む人々、それぞれがそれぞれの運命を背負い、時代の波に翻弄され飲み込まれていく……と、まぁそんな感じの内容。
 上巻は基本的にオムニバス形式。激動の時代に翻弄される人々の姿がある時は滑稽に、またある時はなんとも言えない哀愁を漂わせながら描き出されていくその展開には、作中で用いられた「人の世に情けはあるが、運命に容赦はない」という一言が脳裏に刻み付けられるようで思わず唸らされてしまいます。今回収録されている章の中では、「花魁自由党」とそれに次いで「仕掛花火に似た命」が特に印象深いかな。あと、『エドの舞踏会』の前日談ともいえる「鹿鳴館前夜」も好きです。

 そして個々の物語が文句なく楽しめる一方、作品全体を繋ぎあわせる仕掛けの妙も健在。この話でキーワードとなるのは、「自由党の壮士」。時代の敗残者として干兵衛は彼らをなんとはなしに好ましく思っている一方、時にはその行いに対して痛烈な言葉を口に出したりと、どこか醒めた目でその行く末を見つめています。とはいえ、別に彼らと積極的に関わろうとは露ほども思っていないのに何の因果か何度も関わってしまうのは、運命の皮肉としか言いようがなく。そんな出来事の繰り返しで干兵衛自身も傍観者の立場でいられなくなるのでは……という予感を抱かせつつ、下巻へ。

作品名 : 幻燈辻馬車(上) 山田風太郎明治小説全集3
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : ちくま文庫(筑摩書房)
ISBN  : 978-4-480-03343-7
発行日 : 1997/6

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