芸妓「芙蓉」として激動の時代を生きる女性フミの一代記、第二部。第一部の舞台となった「酔芙蓉」を飛び出し、哈爾濱で芸妓・芙蓉としての日々を送っていたフミ。パトロンの黒谷とも家族のような愛情を育み、幸せな日々を送っているかと思いきや……という展開。タエちゃんの番外編はやっぱり収録されていませんでしたが、彼女のその後についてもちゃんと作中で触れられています。
Sari-Sari連載時に途中まで読んでいたのですが、おぼろな記憶と比べてもかなり変わってる……つーか、冒頭から違うような……うわーん、やっぱり連載版のデータが欲しいいぃ(じたばた)
そんな嘆きはさておき感想。今回も文句なく面白かったです。芸妓になるという夢を叶えたものの、「舞う」ことに迷い苦悩するフミ。黒谷との関係も、彼の弟の登場をきっかけにギクシャクしてしまい、第一部よりもフミにとって厳しい場面が続きます。不穏さを増す一方の歴史背景も加わって、第一部よりもどことなく重苦しい雰囲気を感じました。それでもフミが黒谷弟に啖呵をきる場面とか、要所要所で彼女らしい逞しさ・小気味よさ、思い切りのいい行動が健在なのは救い、かな。
で。底まで落ちてもがき苦しみながら、なんとか浮上しかけていたところに初恋の人・山村との思わぬ接触でさらなる波乱が――とりあえず、二度目の慰問先での出来事は、今読んでもひどいと思いました。連載時は絶句するしかなかったですよマジで。そして、心身ともに疲弊しながら務めた舞台の後、彼女は大きな決断をすることになるのですが――うぅむ、その道を選ぶのか、と思わず唸ってしまいました。この先の時代の流れを知っているだけに、この選択が彼女にどういう人生をもたらすことになるのか、気になって仕方がないです。
そういえば、須賀さんのブログで、「存在が消えた人がいる」というアナウンスがあったときに、たぶん消えるのは展開的にこの人だろうなぁと予想していた通りの人が消えてたので、彼女は連載ではその後どうなったんだろうなぁ、と思いを馳せてしまった。あと、最初はなんて嫌な奴!と思っていた黒谷弟は、話が進むにつれて評価が右肩上がりになっていった。自分の立場や役割に自覚的である人は嫌いじゃない。良くも悪くも、フミの人生においてキーパーソンであったことは間違いないしね……。
そして、フミの人生に深くかかわる男性二人については……連載読んでた時は、あまりのヘタレというかボンボンぶりに黒谷の株が私的に大暴落していたのですが、今回最後まで読んで落ちた株はかろうじて回復しました(早。……というか、某人がいないせいか、この人の行動も連載版よりマシになってる、よね?) で、あらためて双方比較して、やっぱり私は黒谷派だとしみじみと思ったので、第三部での彼の巻き返しに期待したいところです。
さて、次は第三部。果たしてフミの中の獅子は、彼女をどこに導くのか。一人の女として、この先どう生きていくのか。早く続きが読みたいものです。……やっぱり、連載読む用にガラケー一台契約すべきなんだろうか(悩)
『公家武者 松平信平 狐のちょうちん』[佐々木裕一/二見時代小説文庫]
姉の伝手で公家から武士に転身した松平信平(三代将軍家光の義弟)を主役にした時代小説。短編4つ収録。新刊チェックしてた時に、ふと目について購入してみた。
感想。新シリーズの一巻目ということもあってか主な登場人物紹介&縁結び的な印象は残りましたが、お話自体はさくっと読めてなかなか面白かったです。なんというか、子供の頃によく見てたテレビの連続時代劇を思い出すノリだったというか。適度に軽くて肩の力を抜いて楽しめたというか。そんな感じ。
登場人物について。主役の信平は、おっとりしてるようで案外強かなだったり勢い任せなところもある人だった。こういう人けっこう好きだー。お付き兼監視役の二人との関係も地味に良い。実在の人物がちょいちょい顔を出すのも歴オタ的には地味に楽しい。あと、諸事情あって別居中(正式に対面したことはない)の妻との関係がこの先どうなるのか楽しみだったり。1巻では本人はそうと知らず顔を合わせただけですが、このまま名も知らぬどこかのお嬢さんと思いこんで交流を深めてじれじれするのも、実は彼女がっ!と知って真面目に出世の方法考えるのも、どっちも楽しそうだなーと思います。
気ままに生活している信平が、次はどんな事件に首を突っ込むことになるのか。2巻目が楽しみです。
2011年5月の購入予定。
先月はまぁその、なんだかんだで結局書かないままでいたら、今月結構ぽろぽろ買い忘れて困っちゃったよ!というわけで復活。
毎月恒例購入ほぼ確定組の自分用備忘録です。
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『Fate/Zero(4)散りゆく者たち』[虚淵玄/星海社文庫]
「Fate/Zero」商業版第4巻。副題の通り、物語も折り返しを過ぎてそろそろ脱落者が増える巻でもあります。
今回の見どころは、やはりキャスター戦でしょう。キャスターの呼び出した海魔を相手にしたセイバー・ランサー・ライダーたちの共闘は燃えます。その影で展開されるアーチャーvsバーサーカーとか時臣vs雁夜とかも見ごたえあり。しかし、とことん我が道を突っ走ったキャスター組は、最期の瞬間にもある種の希望というか答えを得て逝ってしまったというのは、なんというか、人生の皮肉って感じですな。ところで、商業版だとイラストがないから龍ちゃんがキャスターに自説を披露していた時の純粋無垢な良い笑顔が見られないのがとても残念だと思ったのは私だけでしょうか。
それと対照的だったのが、ランサー組で。ランサーのクラスに召喚されるともれなく運が悪くなるというのは聖杯戦争のお約束なんだろうか……と思わず遠い目(でも、第五次のランサーはSNでもホロウでも自分の筋を通せたから、第四次のランサーよりはまだ幸運だったか) マテリアルで、「ランサーもランサーでケイネス個人は見てなかった」云々という記述がありましたが、それにしてもこの結末はやるせない。切嗣マジ外道。さらに、この戦いの結果ついに切嗣とセイバーの間の、絶対的に埋められない溝も表面化してくるという。……手法はさておき、切嗣の信念も間違っているわけではないあたりが、難しいよなぁと思います。
あとは、最近ホロウやりなおしてたので「アイリスの土蔵」にちょっとしんみりしたり、ライダー&ウェイバー君にほのぼの?したり。
さて、次はどこまで話が進むのか。最終日前あたりかなーと適当に予想しつつ、来月の発売を待つ所存。
『忍びの卍 山田風太郎ベストコレクション』[山田風太郎/角川文庫]
久しぶりの山風作品感想は昨年から角川文庫で刊行開始された、山田風太郎コレクションからこちら。あとがきによれば、これが二回目の文庫化だとか。……こんなに面白いのに、長らく入手難が続いてたとか、正直わけがわからない。ちなみに作者自己評価は「A」。
三代将軍徳川家光の時代。大老・土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は公儀忍び組を一派にまとめるため、伊賀・甲賀・根来の三派を査察し、最も優れた組を選抜するという任を受ける。それが、壮絶な隠密合戦の幕開けだった――というのが序盤のあらすじ。
この忍法帖の特徴は、登場する忍者(及び忍法)の少なさですね。登場人物する忍者は3名のみ。その他は、査察役を仰せつかった柳生流の高弟・刀馬とその婚約者、あとは幕府の上層部などで、まぁ、一般人といってもいい部類。
で、忍者にしろ忍法にしろ、数が少ないとなるとワンパターンになるんじゃ?と思われるかもしれませんが、全然そんなことはなく。少ないからこそ、他の忍法帖ではあっさりさっくり使い捨てられていく忍者の掘り下げが行われたり、一つの忍法が発展をみせたりと、他のそれでは味わえない面白さがあります。
そして、そんな登場人物たちが繰り広げる物語もまた、文句なく面白い。最初にざっくりまとめたあらすじは、本当にただの序章にすぎず。刀馬の査察結果が出てから本格的に幕を開ける忍者たちの暗闘は思わぬ展開を見せ、やがては歴史にも残る「ある事件」に繋がっていくことになるのですが――その展開の巧みさが、さすがは山田風太郎、という感じ。
そして、それぞれに優れた使い手である忍者(+刀馬)の死闘から目を離せないまま物語を読み進めていけば、終盤でさらなる衝撃が待ち受けているという。『黒幕』といっても過言ではないだろう人物の描いた図が白日のもとに晒された瞬間はもう、鳥肌ものでした。作中の「忍法とはただ忍の一字」という台詞、そして、『黒幕』に対し一人生き残った彼が行った抵抗が、なんともいえぬ悲哀を感じさせるとともに強く印象に残ります。