それぞれの事情から、世界を統べる「ウィザード」のいる都・マギを目指して旅をする白魔女見習いの少女エメラルドと仲間たちの物語、第2巻。
今回は、旅の途中で立ち寄ったスパーニャ王国の若き国王クリスにエメラルドが求婚されることになってしまう、という展開。……もっともこれ、甘々恋愛感情からではなく、エメラルドがウィザードに愛される「宝石」であるがための政治的判断や打算あっての申し出なのですが。つーか、このクリスからの求婚だけに限らず、設定的には逆ハーなのにそんな雰囲気がほとんどない(むしろ登場人物同士の腹の探りあいとかで殺伐としてるぐらい)のがなんというか、不思議なシリーズだよなぁと思います。とはいえ恋愛方面も皆無というわけではなく、微妙にフラグが立ちつつあったりするような気がするので、そちらの展開もこっそり楽しみにしています。
また、1巻に引き続き登場人物同士の掛け合いも普通に楽しかったのですが、今回特に面白いなーと思ったのはウォレスとアルフェッカ、二人のウィザード候補の、エメラルドに対する感情の違い。どちらも彼女に執着しているという点では変わりないわけですが、その表し方はある意味対称的なわけで。マギに辿りついたときに彼らの心境に変化は起きたりするのかどうか(ウォレスはまだともかく、アルフェッカはなさそうかな?)も気になります。
さて、一応マギに辿りつくまでの簡単な経路は示されましたが、すんなり行くはずのないこの旅路、エメラルド一行は次はどんな騒動に巻き込まれるのか。そして、エメラルドを諦める気のないクリス(というかスパーニャ王国)の追っ手、パットはどう出るのか。3巻が楽しみなところです。
『オペラ・メモーリア 祝祭の思い出』[栗原ちひろ/角川ビーンズ文庫]
薬師のカナギと謎の詩人ソラ、そして元暗殺者の少女ミリアンの3人、そして彼らと関わる人々の繰り広げる物語「オペラ」シリーズ、第7巻。今回は、雑誌「The Beans」掲載分と書き下ろし分の計7編を収録した短編集。
どの作品も笑いあり涙あり(?)で、素直に面白かったです。中でも、カナギとソラ、ミリアン3人の旅路は、本編ではもうおそらく見ることができないだろう情景だけに、懐かしくもあり多少切なくもあり。……まぁでもしかし、この3人が揃うとなぜかもれなくボケツッコミの漫才状態になるので、しんみり気分は長続きしなかったですが(笑) リュリュとデクストラの出会いの物語は、最後の幸せそうな2人の姿にほんわり。
表題作にもなっている「メモーリア」は3つの短編で構成されたバシュラールの過去編。詩人との因縁がこれで明らかになりましたが……これは、バシュラールが執着するのも無理はないかも……と妙に納得。あまりに非人間的な詩人の姿が薄気味悪い。本編でも得体の知れない人ではありますが、それでもカナギたちと過ごすうちに確実に変わっていたんだなぁと、「リトゥラット」での絵の違いのことも併せて思いました。
さて、次巻はいよいよ本編最終巻。果たしてどのような結末が待っているのか。楽しみに待ちたいと思います。
『ゆうなぎ』[渡辺まさき/HJ文庫]
以前富士見ファンタジア文庫で「夕なぎの街」という名で2作品発売されていたシリーズ、レーベル&シリーズ名を変更しての久しぶりの新刊です。
収録されているのは、マイカが「夕凪」に居つく以前に関わったある事件の話「夕化粧」と、コウとサヨリがある調査で地方に出掛けたときの話「ほうこぐさ」。「夕化粧」は、弟が普通に若者だったのを見て、この2人にもこういう頃があったんだよなぁとなんとなくしんみりした気分になりました。一方、「ほうこぐさ」はサヨリのちょっとした成長物語。彼女と調査の途中で仲良くなった少年ジンタとの交流はなんとも微笑ましく楽しかったです(それだけに途中でジンタに誤解されたときはちょっと辛いものが) 最後に交わした約束が、そう遠くないうちに実現するといいなぁと素直に思いました。
話的には大きな事件が起こるでもなく地味な印象ですが、それもこのシリーズの味だよねぇとしみじみ思い出してみたり。設定の細かい部分は忘れてしまっていたりもしましたが、少し読むだけでも作品世界の空気は自然と思い出すことができ、独特のまったり具合に心地良く浸ることができて満足。
あああと、お料理の描写はこれも相変わらずなんとも美味しそうで……お腹が減っているときに読むとかなり危険かも……。
1月2週目の購入メモ。
『やおろず』[古戸マチコ/イースト・プレス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南』[輪渡颯介/講談社ノベルス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『旧宮殿にて 15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦』[三雲岳斗/光文社文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『だいこん』[山本一力/光文社文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『お隣の魔法使い 永遠は三つめの願い』[篠崎砂美/GA文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『ちくま日本文学007 江戸川乱歩』【amazon ・ boople ・ bk1】
『明治波濤歌(下) 山田風太郎明治小説全集10』[山田風太郎/ちくま文庫]
「海の向こう側」との関わり合いという共通のテーマを持つ中編で構成された『明治波濤歌』下巻。収録3編のうち2編がミステリタッチの作品になっています。
以下、上巻に引き続いて各中編の簡単な感想。
「巴里に雪のふるごとく」:それぞれの事情でフランスに出向いた川路利良、井上毅、成島柳北。そこで、パリに流れ着いていた日本芸者の殺人事件に巻き込まれて……という話。唯一海外を舞台にした作品で、史実からの登場人物は先にあげた3名に加え、殺人事件の重要容疑者にヴェルレーヌ、発見者にゴーギャンが配置されていたり、ユゴーやゾラといった人たちもちょい役で登場していたり、あとこれは実在の人ではないけど探偵役にパリ市警のルコック警部が登場したり、まぁとりあえず豪華共演という感があります。『警視庁草紙』の影響か、敵役という印象が強い川路氏ですが、今回は日本側探偵役として活躍してくれます。犯人とのやり取りや最後の処断の場面は普通に格好良く、達人並みの示現流の腕前も披露して面目躍如……と言いたいところですが、冒頭で某珍事もしっかり書かれていてはそう簡単にいかないか(笑)
「築地西洋軒」:結婚の約束をした某留学生を追ってはるばる独逸からやってきた某舞姫。なんとか彼女を追い返そうとする留学生の縁者2人だが、舞姫の意志は固い。そうこうするうち、彼女の滞在するホテルで決闘騒ぎが起こり……という話。別に名前を伏せる必要性は欠片もないんですが、なんとなく。とりあえず、決闘騒ぎに隠された思惑をびしばし指摘していく舞姫嬢が素敵すぎ。結末は、史実的にもそうならないといけないし納得できるんだけど、皮肉だねぇと思わず苦笑いしてしまいました。
「横浜オッペケペ」:借金取りに追われて国外逃亡を企てた川上音二郎とその妻の貞奴。しかし、そんな無謀な行動が上手くいくはずもなく、遭難しているところを、たまたま居合わせた野口英世に救助される。その後、成り行きから川上夫妻の面倒を見ることになる野口だが、実は貞奴に恋心を抱いていて……という話(ちなみに、永井荷風も隠れて登場していたりする) とにもかくにも、川上音二郎&野口英世の何を巻き込んででも目的に驀進していく様が強烈。特に初読のときは、野口英世のイメージ(といっても、子供のころに偉人伝で読んだイメージしかなかったけど)が木っ端微塵になるほどの衝撃を味わいました(笑)