龍族、鳥族、犬族、猫族、人族、そして混血たちの住まう大陸を舞台にした物語、第4巻。伏線回収が始まって、ああもう終わりが近いんだなーとあらためて実感。
「鋼の風」と別れ、龍族の住む大山脈を目指すベルネことレスティ。その旅路の中で遭遇するもの、見えてくるものは……という感じの展開。なんやかんやで賑やかだった「鋼の風」と面々がいなくなり、これからはまさかレスティの一人旅になるんだろうかと思っていたのですが、そうはならず。目的はそれぞれながら、龍族と見えることを望む各種族の人々が旅に順次加わっていくことに。で、その彼らが同行者となる過程や、物語の中では柔軟な彼らの中にも深く根付いている思想や互いへの偏見・先入観といった様々な要素の克服というか歩み寄りというか、まぁとにかくお互いを旅の仲間として認めていく様子などが、相変わらずの淡々とした筆づかいにもかかわらず面白く読めました。
あと、1巻限定の脇役だったと思っていた二人の再登場にはちょっと吃驚。中でも彼女が追いかけてきたのは嬉しい誤算だったかも。しかし、それならそれで2~3巻でも同行してくれていれば、徐々に絆を深めていく様子も堪能できただろうに、とちょっと惜しい気がした。
さて、これまでの話の中で生まれた流れが、様々なところで結びつき、また新たな流れを呼び込みつつある状況ですが、果たしてレスティの旅の終わりはどのような形となるのか。そして龍族の目的は……などなど、あれこれ予想しつつ最終巻となる5巻を楽しみに待ちたいと思います。
『風来忍法帖 山田風太郎忍法帖11』[山田風太郎/講談社文庫]
昨年末から急に山田風太郎作品は面白いんだよーと主張してみたくなったので、Webの片隅でつらつら拙い感想を書いてきましたが、「そういや忍法帖の感想はまだ一冊も書いてなかったなぁ」と今更ながら気がついたので、とりあえず個人的お気に入りトップクラスのこれを引っ張り出してきてみた。ちなみにこの作品の作者自己評価は、「B」。……いや、冷静に読めばそう判断する理由はなんとなく理解できるような気がしなくもないんですが、それでもやっぱりいくらなんでもその自己評価は厳しすぎると思います。つーか、普通の作家なら十分すぎるほどに傑作でしょうこれ(←ファンの贔屓目入ってます)
時は豊臣秀吉の小田原攻めと前後するころ。主な舞台となるのは北条方の小城・忍城。この城を巡る攻防戦に、戦場を喰い物に世を自由気侭・傍若無人に渡り歩いていた7人の香具師たちが巻き込まれていく、というのざっくりしたあらすじ。
物語の主人公となる7人の香具師たちは、個性豊かではあるものの英雄とは程遠い、揃いも揃ってロクデナシばかり。戦禍に乗じて女を犯し売り飛ばすなど冒頭の行いの数々には嫌悪感すら抱いてしまうのですが、仲間同士の阿吽の呼吸や掛け合いが基本的に陽性の質を帯びているためか、どうにもこうにも憎みきれない。それでも、こんな連中が主人公では一体どういう話になるんだろうと思わせたところで、彼らにとって「運命の女」となる勇猛可憐な麻也姫との出会いがあり、そこから物語は二転三転していくことに。中盤までは、自分たちに恥をかかせた(自業自得ともいう)麻也姫に仕返しをしてやろうと意気込み、凄腕の風魔忍者が護衛する彼女に近づくためあの手この手を試す香具師たちの悪戦苦闘ぶりに、つい笑ってしまいます。また、秀吉の本陣から旗印を盗み出す羽目になったときの機転というか立ち回りというか舌先三寸の芸当は、彼らならではの仕事という感じでなかなか痛快でもあり。
前半はそんな感じで珍騒動が繰り広げられていくのですが、中盤にそれまでの構図がひっくり返ったあとの展開は、ただ凄まじい。それぞれ一芸はあるもののほとんど凡人の香具師7人と香具師のリーダー格・悪源太に心奪われた風魔の女忍7人が、天と地ほどの実力差がある強敵に文字通り命を捨てて挑んでいく様は、壮絶・悲壮としか言いようがなく。しかしその一方で、自らの仕事のその成果にしてやったりと笑う彼らの姿が目に見えるようで、悲しいはずなのに不思議と爽快な印象も残るのです。
忍法帖には異色の明るい作品としても有名で、事実最後までどこかユーモラスな雰囲気がありますが、それだけに、最後に描き出された美しいその情景には、言い知れないほどの寂寥感を覚えずにいられません。
0805購入メモ(その4)。
『クドリャフカの順番』[米澤穂信/角川文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『夜市』[恒川光太郎/角川ホラー文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『蒲公英草紙 常野物語』[恩田陸/集英社文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『曹操残夢 魏の曹一族』[陳舜臣/中公文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『世界の歴史15 成熟のイスラーム社会』[永田雄三・羽田正/中公文庫]【amazon ・ boople ・ bk1】
『巡歴者 創世の契約4』[花田一三六/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]【amazon ・ boople ・ bk1】
『カーマロカ 将門異聞』[三雲岳斗/FUTABA NOVELS]【amazon ・ boople ・ bk1】
『月光果樹園 美味なる幻想文学案内』[高原英理/平凡社]【amazon ・ boople ・ bk1】
『天啓のパルティア 月の姫巫女が予言する』[真朱那奈/B’s-Log文庫]
第10回えんため大賞ガールズノベル部門佳作受賞作。あらすじ読んで、なんとなく購入してみようかなーと思えたのでぽちってみた。
感想。普通に少女向けファンタジーの王道といった内容で、普通に面白かったです。主人公のパルティアは不吉な予言を覆そうとポジティブに頑張る女の子で好印象だし、彼女の婚約者ハルバートも外見・内面ともに秀でた絵に描いたような素敵な王子様という感じで、こちらもなかなか悪くなかったし、ほかのキャラも根本的に良い人ぞろいだし。話そのものは、予言を回避するための基準がちょっと曖昧なような気がしたり、言葉の選択がちょっと興を削いだりと気になる点もいくつかあったけど、メインの筋は非常にそつなくまとまっているし主役カップルの関係も楽しめたしおおむね不満なし。
結局回収されなかった伏線もあるにはあるけど、個人的には続編はあってもなくてもいいかなー。ああでも、3冊で完結というぐらいなら破綻もなくまとまりそうだし、いいかも。なんにしろ、次回作も地味に楽しみにしておこうと思います。
どうでもいい独り言。パルティアって音は嫌いじゃないんだけど、どうしても国名を連想するんだよなー。
『幻燈辻馬車(下) 山田風太郎明治小説全集4』[山田風太郎/ちくま文庫]
山田風太郎明治小説全集4巻目。『幻燈辻馬車』後半と、相馬事件を題材にした『明治忠臣蔵』、広沢参議暗殺事件を巡る『天衣無縫』、そしてとある誤解から最初の絞首台を作ることに執念を燃やす大工とその周囲の人々を描く『絞首刑一番』を収録。
『幻燈辻馬車』は、前半のオムニバス形式とは一転し、自由党壮士(≒過激派)と警視庁等との暗闘が前面に現れてきます。干兵衛も否応なくその流れに巻き込まれていきますが、そこに失踪していたお雛の母親が絡んできたり、自由党の中に潜んでいた意外な密偵たちが判明したり、果てには干兵衛の妻・お宵の死の原因となった男が判明したりと、物語は二転三転。様々な因縁が一旦の収束を迎える石川島監獄外での決闘場面はなんともいえぬ迫力。そして、ようやく静かな生活を手に入れた干兵衛の前に現れたのは……。ここからは、先の決闘とはまた異なる迫力があるというか……かつて死力を尽くした人間の意地と信念、そして彼らの思いを乗せて疾走していく馬車の姿に、粛然とせざるをえませんでした。
『幻燈~』以外に収録されている短編作品では、『明治忠臣蔵』が一番印象深いかな。かつて仕えていた相馬子爵が奸臣たちによって不当に監禁されているとして、彼の身柄を自由にしようと東奔西走する旧藩士の錦織剛清。彼と奸臣とされた相馬家家令(ちなみに、某有名作家の祖父)をはじめとする人々の戦いは、ある「事実」や予想外の出来事によって様々な展開を見せるのですが……嗚呼、いざとなれば女は怖い。その他、『天衣無縫』や『絞首刑一番』も、それぞれに運命の滑稽さあるいは皮肉さが生み出す悲喜劇とでもいうべき内容で楽しめます。