バターと砂糖をたっぷり使った昔ながらの製法に和の食材を合わせた、京都烏丸の一風変わった焼き菓子店「初」。感じの良いかわいい女性店員と、愛想のない青年の菓子職人が営む小さな店に足を運ぶ人々の楽しいことも悲しいこともある平凡で豊かな日常と、お菓子を巡る短編集。
焼き菓子好きとしてちょっと興味を惹かれる美味しそうな表紙につられて購入。
なんだかんだ人気ジャンルなお仕事&食べ物ほっこり系の短編集かと思って読み始め、たしかにそういう要素もあったんですが、それだけじゃなく。収録されている4話とも、各話の視点人物の歩んできた時間や培った考え・想いに寄り添いながら、だからこそ彼・彼女の悩みに魔法のような解決が示されるわけではない。簡単に解決するものでもないわだかまりは、とりあえずそのままにしておいても人間は前に進んでいけるものだし、あるいは何かのきっかけでちょっとは歩み寄る余地が見つかるかもしれない。そんな感じで、綺麗事で終わらないどこかリアルな感触があるというか、多かれ少なかれ「わかるわー」となる短編集でした。
あと焼き菓子の描写がとても美味しそうで、「本当にこんな店あったら常連になるわー」と思いましたね。
最終話で少しお互いの事情に踏み込んだ菓子職人(兼店長)さんと店員さん。共に過ごした時間の分だけ良きコンビとなりつつある彼らの大切な店とお菓子が呼び覚ます、別の日常の物語をいつかまた読めたらいいな、と思います。
作品名 : 『京都烏丸のいつもの焼き菓子 母に贈る酒粕フィナンシェ
著者名 : 古池ねじ
出版社 : 富士見L文庫(KADOKAWA)
ISBN : 978-4-04-073804-8
発行日 : 2020/9/15