表紙に惹かれて手にとった一冊。「どんな願いでもひとつだけ叶える」悪魔と、願いを持たない王女コクラン。ふたりが織りなす、どこか寓話あるいは舞台劇を思わせる雰囲気の、実に素敵な物語でした。
出会いからいささか感覚のずれた、それ故に軽妙なふたりの会話から始まって、序盤は基本的には明るくコミカルな雰囲気。王が老齢であるために王女たちの学舎のような扱いになっている後宮で繰り広げられる日々は、歪さを抱えながらも楽しげで、読んでいて楽しかったです。
やがて、とある出来事をきっかけにコクランと悪魔は互いに親愛の情を抱くようになっていくのですが……ここでコクランの抱える「事情」が彼女を追い込んでいくことに。次々と明かされる秘密と畳み掛けるような展開にハラハラしどおし。その中で語られる、コクランがただひとつ欲していたもの。彼女のために悲しみ憤り、己の存在を危うくしてでもその力を振るおうとする悪魔の想い。それぞれに胸に迫るものがあって、涙が滲みました。
そして、迎えたラスト。コクランを取り巻く環境は変わっていないですし、これからも苦難は絶えないと思うのですが……一方で、それでもきっと彼らは幸せになるだろうと、不思議とそう思うことができる、奇妙に後味の良い結末でした。
作品名 : 王女コクランと願いの悪魔
著者名 : 入江君人
出版社 : 富士見L文庫(KADOKAWA/富士見書房)
ISBN : 978-4-04-070319-0
発行日 : 2014/9/10