『wonder wonderful(上・下)』[河上朔/イースト・プレス]

 しばらく前に感想サイト界隈で話題になってたWeb小説の書籍化。話題になってた時に一読し、わりと気に入ってたので新規書き下ろし&初版限定でWeb特典が読めるという書籍版も購入。

 Web版を読んだ時の、根本の部分がとても優しい物語だなーという印象は書籍版でも変わりませんでした。……個人的好みからすれば、ちょっと優しすぎる気もするのですが、まぁそこはそれということで。
 異世界旅行常習者の妹(学生)のピンチに、社会人の姉がその異世界に渡ってしまって……というシチュエーションから始まる物語。こういう異世界トリップもので、主人公のこかげが社会人というのが珍しいし、ファンタジーとは言うものの不思議要素があまりない世界なので、物事への対応とか作戦とか、いろいろと現実的なのが面白かったです。何か問題が起こっても勢いで突っ走らず、自分の状況やら何やらを総合的に考えてから次の行動を選んで実行していくのがなんだかリアル、というか、まぁ普通はそうするよなーと妙に納得。
 5年前におきた事件の影響で完全に「歓迎されざる客人」だったこかげが、時に下手を打って落ち込んだりもしつつ、自身の人柄や努力によって他者からの信頼や居場所ややるべきことを獲得していく姿に普通に好感を持ちました。あと、こかげの存在が呼び水となって、5年前の事件で傷を負った人々の間に少なくない波紋が広がっていくことになるのですが……それぞれの形で過去と向き合い折り合いをつけ、前を向いて歩いていく彼らの姿にもじんわり来るものがありましたねー。
 あと、ロマンス含めた人間関係も楽しかったです。こかげと隊長の距離が縮まっていく過程には言うまでもなくニヤニヤしましたが(不気味)、こかげとヨーサムの会話とかやりとりもお気に入り。

 そういう数々の背景や積み重ねがあったからこそ、事件が一件落着し、元の世界に戻る直前までの僅かな時間の温かさが、愛おしくて切なくて仕方がありませんでした。こかげの2回目の異世界行があるのかないのか、それはまさに神のみぞ知る、というところでしょうが……Web特典小説を読むと、またいつか、と願いたくなりますね。

作品名 : wonder wonderful(下)
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著者名 : 河上朔
出版社 : イースト・プレス
ISBN  : 978-4-87257-945-1
発行日 : 2008/9/13

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