山田風太郎明治小説全集14巻&最終巻。表題通り、13巻から続く「明治十手架」(後編)の他、大津事件でロシア皇太子を救った俥夫たちの辿る運命を描いた「明治かげろう俥」、そしてホームズのパスティーシュである「黄色い下宿人」を収録。
「明治十手架」は、投獄された原の命を狙う悪徳巡査・看守5人と、原を守ろうとする悪党たち5人の「けだもの勝負」と題される戦いが開始。超人的な技こそ出ませんが、どこか忍法帖を思わせるこの勝負、状況・能力的にはどうあがいても不利な悪党側がそれぞれに力を尽くして悪徳官憲たちを討っていく過程は、ただ圧倒的に面白いとしか言いようがないです。
「明治かげろう俥」は、大津事件の際に犯人・津田三蔵を取り押さえた俥夫たちに焦点を当てるという、その着眼点だけでも面白い。津田の娘や俥夫の周辺の人々なども深く関わり流転していく彼らの人生には、綺麗事ばかりではない浮世のままならなさや悲哀を感じます。テーマ的には重いものもあるのですが、読後感はやるせなさは感じるもののそう悪いものではなかったりするあたりは、言うまでもなく作者氏の巧さなんでしょうねぇ。……つーか、なんでこれで作者自己評価がCなのか、割と本気で理解に苦しんでいるのですが……。
「黄色い下宿人」は、あのホームズと某著名人(一応伏せるけど、読めば誰かはすぐ分かる)の夢の競演。もともとミステリ作家でもある作者氏ですから、ミステリとしての完成度はいうまでもなし。……まぁ、熱心なシャーロキアンの人が読むとどう思うのかまではわかりませんが。なお、某人が名乗るのは本当に最後なのですが、いろいろ知っていると途中の描写でにやにや出来てそれもまた楽しいです。