『烏金』[西條奈加/光文社]

金貸しを営み、「因業婆」と近所で評判のお吟。取り立て先で押し問答となっていたところ、ふいに現れた浅吉という若者にその場を助けられる。火事で焼け出され、職がないという浅吉は、興味を持ったと金貸し業の手伝いを申し出た。新しい発想で次々と焦げ付いた借金をきれいにし、貧乏人たちを助けつつ利益を上げていく浅吉に、いつしかお吟も気を許し始める。しかし浅吉には実は秘密の目的があり、大金を手に入れるために素性を偽ってお吟に近づいたのだった……。

 「金春屋ゴメス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビューした作家さん。「金春屋」は近未来の江戸を模した「江戸国」を舞台にしていましたが、今回は普通に江戸が舞台の時代小説。

 最近のファンノベ大賞受賞者は個性が薄めでいまいち物足りないなぁなどと思っていましたが、ちょっと見直したというか。やっぱり大賞受賞者となると標準レベル(個人的認識)はクリアしてくるし、話自体は面白いなぁとしみじみ思いました(←微妙に失礼な言い草)
 極個人的な雑感はさておき、この作品の感想。帯に「企業アドバイザー」という文字が躍ってましたが、確かにそんな感じ。浅吉が柔軟な発想を武器に、返済が滞っている人々の商売に手を入れたりして利益を上げていく過程は、多少上手くいきすぎな感もありますがそれでもなかなか面白いと思いました。そして、互いとのやりとりで浅吉やお吟、そして借財人たちの意識が変わっていくのは、お約束とはいえやはり良いものです。
 浅吉の本当の目的については、最初は単純にお吟のせいで一家離散の憂き目にでも遭ったんだろうかと思いましたが、読んでいくうちにどうも違うっぽいなぁと思いはじめ。最後になってそれが明かされた時は、あーそういうことかと妙に納得。いや、二人の関係については中盤でもしやと思ってたけど、目的のほうはいくら思わせぶりな描写があってもちょっと分からないよなぁ。

 最後まで楽しく読めて満足でした。続編は……この巻で綺麗に完結してるから無理かと思うけど、光文社的には結構乗り気な感じ? まぁ、もしもがあるならその後のお吟たちの商売、あるいは浅吉の奮闘を読んでみたいとは思います。あと、「金春屋」のほうも続きがそろそろ読みたいなーと思ったり思わなかったり。

作品名 : 烏金
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著者名 : 西條奈加
出版社 : 光文社
ISBN  : 978-4-334-92563-5 → 978-4-334-74702-2
発行日 : 2007/7 → 2009/12/8(文庫化)

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