謎の美女・金星の「婿候補」として、一寸先は闇どころか何が起きるか分からない列車に乗り込み、なりゆきから一緒に行動することになった3人組と彼らと縁付いた人々の冒険、第6巻。
5巻の感想で「そろそろ折り返し地点かなー」とか書いてたら、次の7巻で最終巻になるそうで。内容的にもそれらしく伏線回収に……入ってねえっ!(絶叫) いや、別行動になってた金星特急乗車組+護衛+その他の面々の合流とか、金星のもとに集められた少女たちのあれやこれやとか、いろいろと動きはあるんですけどね? でもこれ、あと一冊で終わる気が全然しないんですけど……。本編終了後に番外編が予定されているらしいから、とりあえず錆丸と金星の世界を巻き込んだ恋の行方だけを決着させて、その他諸々の懸案事項は持ち越しになるのかなぁ。
登場人物的には、錆丸が成長したなぁとか砂鉄とユースタスはニヤニヤするなとか伊織にーちゃん格好いいな!とか暁玲さん素敵ーとか月氏の面々は相変わらず良い味出してるなとか殿下とハハリJrのやりとりは地味に好きだなぁとか、そんな感じで。あ、殿下は書き下ろしで描かれた初恋の苦さがとても良かったです。
さて、ともあれ残り一冊。はたしてこの先どんな展開が待っているのか、正座して待つばかりです。
『封殺鬼 クダンノ如シ(中)』[霜島ケイ/小学館ルルル文庫]
長編伝奇シリーズ「封殺鬼」、二ヶ月連続刊行の神島桐子主役の昭和編エピソードです。
上巻ラストで学園に封じられた魔性であり、未来を予言する「件」ではないかとされた少女・妙子が登場し、事態は急変するのかと思ったら……なんか予想とは全然違う方向に展開したというか、とても少女小説だっ!と叫びたくなった。
とりあえず、生まれて初めての学園生活を同年代の友人と一緒に過ごす桐子が、実に乙女になっててニヤニヤ。桐子だけでなく、清香も妙子もかわいくてさらにニヤニヤ。それだけに、終盤の男どもにはこのおおたわけー!と言ってやりたい。とても言ってやりたい。志郎はまぁかろうじてセーフだけど、あとの二人はちょっとそこに正座しなさいと(以下延々と続くため略)
そんなこんなで乙女たちの目映い青春模様にニヤニヤゴロゴロする一方で、ひたひたと暗くなっていく世相がなんともはや。学園内にも軍の思惑絡みだけではない、社会の歪みが厳然と存在していたりするしな……本当、このまま何も起こらず、みんなで卒業できればいいよ、としみじみ思いました。あと、御景の名前が出てきて、おぉ、と思った。桐子の時代だと仕方がないとはいえ、神島が前面に出てくるからなぁ。
さて。未だその全貌が見えぬ、学園――もっと言ってしまえば、妙子という少女を巡る思惑は如何なるものなのか。三人の乙女たちの恋の行方も含めて、下巻発売がとても待ち遠しいです。
『神殺しのリュシア』[遠沢志希/f-Clan文庫]
自分が犯した禁忌のために、故国の守護者であった竜が甦らない。そうと知らされた少女が、心優しい青年神官と用心棒として雇った傭兵と共に、「竜を復活させるため」死への旅路を歩む――と、そんなお話。
完全にあらすじ買いだったんですが、なかなか面白かったです。f-Clan文庫は恋愛に偏り過ぎない佳作が多くて良いレーベル。このまま独自路線で展開して欲しいところ……と、そんな個人的な希望はさておき。
とある経緯から後天的な不死となったリュシアですが、その体質は彼女に恵みをもたらすわけではなく。相当にひどい扱いをも受け入れてしまうリュシアに、そこはもっと抵抗しても良いのよ……と思わず声を掛けたくなったりした。その読者の声を主に代弁してくれるのが、同行者である神官のユアン。リュシアを葬る役目を負わされ、旅の途中も苦悩しつづけていたユアンでしたが、本当にこの人は良心的な人だった。彼の小さくも良心的な働きかけが、いろんなことが変わるきっかけになったのだなぁ、とつくづく。もうひとりの同行者であるクゥイルは、ある意味予想通りの役回り。あとがきのコメントでちょっと吹きました。
物語としては、わりと王道路線。意外性とかを期待すると物足りない面があったり、ちょっと駆け足気味に感じる部分もあったりもしましたが、全体としてみればシンプルかつ綺麗にまとまった佳作だったと思います。
『封殺鬼 クダンノ如シ(上)』[霜島ケイ/小学館ルルル文庫]
長編伝奇シリーズ「封殺鬼」、ほぼ1年ぶりの新エピソードは 「鵺子ドリ鳴イタ」「帝都万葉」に引き続き、神島桐子が主役のエピソード。見合い話から逃げるため東京の女学院に通うことになった桐子は、軍が絡んでいるその学校のとある噂を探ることに――と、そんな展開。
感想。桐子様が乙女でとてもかわいかったです。キャンパス文庫版で読んだ最強婆様な印象が脳内で優勢となっている彼女ですが、若い時は乙女だったのね。「花闇」や「鵺子ドリ」の頃の彼女はもっと張り詰めた雰囲気があった彼女が、ここまで人間らしく乙女らしくなったのは、やはり志郎や宇和野ご夫妻の影響が大きいのだろうなぁ……としみじみ。
そんな彼女、今回は生まれて初めて女学校に通うことになるのですが。戸惑いつつも初めての女友達!と一緒に学園生活を過ごしたりとか、恋のライバル!?登場に心穏やかでいられない様子とか、もうとにかく桐子かわいいよ桐子!としか言いようのない。卵焼きとかビーズとか女の子のお茶会とか、封殺鬼でこういうエピソード読めると思わなかったよ!と随所で大喜びでしたが、なかでも終盤の赤面シーンはもう……! 志郎の天然めー!と床ローリングしました。あ、すっかり保護者となってる鬼二人も相変わらずでした(笑)
そんな感じで、学園の噂や軍の影など不穏なものを感じつつも、おおむね楽しい学園生活が描かれた上巻でしたが、しかし、時代背景的にも平和な雰囲気のままでは終わらないのだろうなぁ、と予想がついてしまうのがなんとも切ない(それを言うなら、すでに終着点が分かってしまっている桐子と志郎の関係の結末も、なんですがね……) 「件」であるとも噂される、学園に棲む魔性の正体は如何なるものか。とりあえず、来月予定の中巻が待ち遠しいです。願わくば、下巻も早く読めますように。
『公家武者 松平信平3 四谷の弁慶』[佐々木裕一/二見時代小説文庫]
姉の伝手で公家から武士に転身した松平信平(三代将軍家光の義弟)を主役にした時代小説、第3巻。1巻短編集、2巻長編ときて、3巻目となる今回は短編集。今後も順番で進むのかしら、と思ったりした。
内容的には、四谷に住まいを移した信平が、相変わらず飄々と日々を過ごしながら、ふとしたきっかけや縁などから様々な事件に関わっていく――という感じで、やはりテレビの連続時代劇風。肩の力を抜いてサクッと読めて、時に苦い展開もありつつ最後は後味すっきりさわやか。……まぁ正直、人によっては「軽すぎる」と思われるかも。個人的にはこういうエンターテイメントに徹してるのは悪くないよね、と思いますが、そろそろ展開にもう少し捻りが欲しい気はしなくもない。
で、このシリーズの気になるポイントといえば、信平とその妻・松姫の恋の行方なんですが。2巻で微妙に信平が勘違いしてたので、これが変にこじれたりするのかと予想していたんですが、さくっと顔合わせして進展するとか吃驚した。お姉様GJ。あと、密かに信平への心象がかなり良くなってる義父上に笑ってしまった。
今回は加増はされませんでしたが、松姫との関係が深まり、部下(候補)と出会い、また、その人柄を評価して彼を好意的に見ている幕臣からの応援もあり――と、1000石はまだ遠いにしても着々と前に進んでいる信平。次ぐらいで大事件に関わってどーんと加増されてもいい気がしなくもない。ともあれ、続きを楽しみにしてます。