『銀の騎士 金の狼 -新たなる神話へ-』[榎田尤利/講談社X文庫ホワイトハート]

 カタストロフィー後に形成された歪な支配体系と対峙する二人の若者とその仲間たちの物語、最終章開幕。

 フェンリルとサラの再会で終幕となった「神話の子供たち」から4年の歳月が経過し、二人が身を寄せているレジスタンス組織も勢力を増していた。そんな中、サラたちは失敗できない作戦を実行に移すことになり……という展開。
 作中でも思わぬ展開があったりしましたが、何より驚愕したのがあとがきの「次巻が最終巻」という言葉だったかもしれません。つーか、銃姫8巻以上に「本当にこれで終わるのか?」という疑問で一杯なのですが。いや、あっちに比べればすっきりとした寄り道のない構成なので大丈夫なような気もしますが、それでもまだ回収途中の伏線が結構あるし。
 それはさておき、作品内容はというと。レジスタンスたちの作戦実行の段階では、これまでの話と同じくシティの暗部を描写しつつ話を進めるために伏線も回収していってるという展開でまぁ普通に面白いという程度だったのですが、作戦実施後のユージンの冷静かつ老獪な対応で一気に大きく動いた感がありますね。ユージンがアレを保管しているだろうというのは予想の範囲内でしたが、それでもフェンたちがそれにどういう風に対処していくのかは気になるところです。それにしても、フェンの告白場面ではレジスタンスのメンバーたちの反応に、あんたらいままでフェンの何を見てきたんだよ……と、少しばかりやるせない気分になってしまいましたよ……タウバとサラに救われたけど……。

 さて、タウバと共にレジスタンスから離れたフェンの悲願は、無事に果たされるのか。サラが向かおうとしている母の故郷では、一体何が待っているのか。そして、底の見えないユージンの真意はどこにあるのか。いろいろ予想しつつ、最終巻を楽しみに待ちたいと思います。

作品名 : 銀の騎士 金の狼 -新たなる神話へ-
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著者名 : 榎田尤利
出版社 : 講談社X文庫ホワイトハート(講談社)
ISBN  : 978-4-06-255917-1
発行日 : 2006/12/2

『狐笛のかなた』[上橋菜穂子/新潮文庫]

亡き母から「聞き耳」の力を受け継ぎ、とりあげ女(産婆)の祖母と共に村はずれで暮らす少女、小夜。呪者に命を握られ使い魔とされている、この世と彼の世の狭間の「あわい」に生まれた霊狐、野火。有力者の家に生まれながら、敵対する一族からの呪いを避けるために森陰屋敷に閉じ込められた少年、小春丸。孤独な三人の子供たちを結んだ一時の縁は、やがて彼らの運命を大きく左右することになる。

 「守り人」及び「旅人」シリーズで人気の児童文学作家・上橋さんの読みきり作品で、ある土地を巡って憎みあう二つの一族の争いと、それに巻き込まれた子供たちそれぞれの行く末を描いた物語。ちなみに、上橋さんの作品ではこれが初の一般文庫化ですね。

 この作品の魅力の一端を担っているのは、やはり確かにそこで生きていると感じさせる登場人物たちの描写ではないかと。味方であれ敵であれ、それぞれに苦悩を抱えた上でそれぞれの道を選んで(あるいは選ばざるをえなくて)生きている、というのがまざまざと伝わってきて、人の業というものになんともいえない切なさや哀しさを感じます。そして、立場等に縛られ憎しみの連鎖にとらわれている大人たちの姿があるからこそ、純粋に互いを想いあう小夜と野火、そして己の行いに涙する小春丸の姿には余計に胸を打たれるのです。それにしても、野火はいちいち切なすぎると思う……。
 あと、無駄の省かれたシンプルな描写ながら脳裏にはしっかりとその場の情景が浮かび上がってくるのはすごいとしか言いようが。それに、ここぞという場面での形容や描写がまた、憎らしいぐらいにびしっと決まってるのもまたすごい。

 終章に描かれる場景はとても美しいけれど、どこか物寂しさも感じてしまう。小春丸のように「むごい」という思いはないのですが(大体、小夜はああなったことを後悔していないだろうし)、「ああ、ここからは少し遠い場所に行ってしまったんだなぁ」と、そんな思いをどうしても抱いてしまうのです。

 以下、一回書いて別に言及するほどでもないかなぁと削除したけどやっぱりもやもやしたものが残るので呟く独り言。裏表紙のあらすじ、前半はいいとして後半はちょっとどうだろうと思う。いや、具体的にどこがどう、と上手く言えないんですけど、でも何か違うというか……二人の行動が「愛」の一言で単純化されてるのに違和感があるんでしょうかねぇ。

作品名 : 狐笛のかなた
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著者名 : 上橋菜穂子
出版社 : 新潮文庫(新潮社)
ISBN  : 978-4-10-130271-3
発行日 : 2006/11/28

仕事が途切れない。

ようやく先月分の仕事が終わりかけたと思ったら、もう今月分の仕事の山が積み上がってますorz
いやしかし、先月苦労しただけにベースは出来てるし、これからは先月ほどは苦労しないはず!(希望的観測)
……まぁそれでも、当分の間残業は避けられない感じなのですけどね(疲)
まぁ、愚痴っても状況改善されるわけでもないし、適当に頑張ろう。

『闇鏡』[堀川アサコ/新潮社]

寒露の夜、京随一の遊女が殺された。凄惨な殺害現場には半月前に死んだ女が居たという。腕っ節は強いが大の幽霊嫌いの検非違使・龍雪は、奇妙な縁から事件を追うことになるのだが――。

 第18回日本ファンタジーノベル大賞、優秀賞受賞作。

 「室町時代を舞台にした伝奇ミステリー」という売り文句ですが、伝奇要素も多少はあるものの基本はミステリという感じ。そしてミステリとしては、それほど凝ったものでもなく、普通に読んでればおおよそ見当はつくといった程度。とりあえず、主人公には何度か「いや、そこはもう少しツッコメよ」と言いたくなった。
 あと個人的好みで物申せば、下手にミステリ仕立てにしなくても良かったんじゃないかなーと。いや、随所随所で引き込まれる描写や雰囲気はあるだけに、あえて理詰めで解決しなくても、もっとこう、情念ドロドロの怪しい世界に浸らせてくれたほうが良かったなーと。結局は普通のミステリになっているのがなんとなく勿体無い気がするのですよ(←伝奇好き)

 まぁともあれ、雰囲気等は決して悪くなかったので次回作も普通に期待。

作品名 : 闇鏡
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著者名 : 堀川アサコ
出版社 : 新潮社
ISBN  : 978-4-10-303071-3
発行日 : 2006/11/21

『ブラック・ベルベット 緋の眼』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

 「十年戦争」と呼ばれる大戦で荒廃した世界を舞台に、強大な宗教国家転覆を目論む少女と様々な立場の人々の思惑を描いたシリーズ、今回は番外編。雑誌コバルトに掲載されていた中編に大幅加筆しての文庫化。

 本編では主人公のキリたちと敵対しているディートン教のヴァルカーレ総主教、サンティス大主教、そしてエイセルの過去の話。最初と最後はあまり変わってませんが、過程などは大幅に膨らんでいるのであんまり再読という気もせず楽しめました。あと、雑誌掲載時は細かい設定は初見さんのために伏せてあったのかなぁ、と思いました。具体的にはサンティスのアレとか。

 いろいろ設定が明らかになり、本編でのサンティスやエイセルの動向が気になるところで幕。しかし、この「緋の眼」も過去に起こったこと全てを描いているわけではありませんので、そちらの方もこの先何らかの形で読めればなーと思ったり。

作品名 : ブラック・ベルベット 緋の眼
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著者名 : 須賀しのぶ
出版社 : 集英社コバルト文庫(集英社)
ISBN  : 978-4-08-600851-8
発行日 : 2006/11