『女衒屋グエン』[日向夏/星海社FICTIONS]

「薬屋のひとりごと」シリーズ等を書かれている作者さんの新作。架空の中華風王朝の花街、その一角にある妓館・太白楼を舞台にした連作小説。

妓館が舞台なだけあって、話の中心になるのはそこで暮らす妓女たち。焦点を当てる女を変えながら語られていく話のそこかしこに置かれた種が花開くクライマックスの展開は、小気味よかった。また、作者さんのちょっと突き放したような淡々とした文章と、太白楼を俯瞰する立ち位置にいる翡の目線がうまく作用しているのか、どの話も妓女を話の主にしてはいるもののあまり重くなりすぎず後味が悪くもなかったのも○。
クライマックスにあたる5幕以外では、3幕が好きかなー。未練を吹っ切った女の啖呵にすっきりした。あと、話のメインになった妓女の中でひとりだけ異なる道を行った万姫のその後が地味に気になる。

微かな花の香りを残して綺麗に幕を降ろした物語、面白かったです。

作品名 : 女衒屋グエン
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著者名 : 日向夏
出版社 : 星海社FICTIONS(星海社)
ISBN  : 978-4-06-513110-7
発行日 : 2018/9/18

『花だより みをつくし料理帖 特別巻』[高田郁/ハルキ文庫]

NHKで連続ドラマにもなった人気時代小説シリーズ。4年ぶりに発売となった「特別巻」は、登場人物たちのその後を描いたボーナストラック巻でした。

収録されているのは4編で、各話で焦点が当たるのは種市たち江戸のつる家の面々、小松原とその妻、野江、そして澪と源斎先生。当たり前ですが、シリーズが大団円で終わっても、彼女たちの人生はまだ続いていたわけで。あれからもいろいろあって、でも変わらず元気にやってるんだな、と。個人的に一番ほっとしたのは、種市とりうさんが年齢の割にお元気そうだったことかな。今回、幼い頃の澪と野江を占った易者さんにもお墨付きもらってましたし、まだまだ現役で頑張ってくれそう。あと、成長したつる家の若者組の姿や、小松原の妻・乙緒の屈託を晴らした菓子とその後の会話、野江の又次への想いとそんな彼女がようやっと望み手にしたもの、そして、道に迷うこともあれど互いの務めを尊重し支え合いながら暮らしている澪と源斎先生――どの話も懐かしい人たちの近況を思いがけず知る機会に恵まれたという感じで、「花だより」という表題に相応しい内容でした。

この先もまたいろいろあるだろうけど、みんなしっかり地に足をつけて生きていくんだろうと、そう自然と思えた1冊。読めて良かったです。

作品名 : 花だより みをつくし料理帖 特別巻
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著者名 : 高田郁
出版社 : ハルキ文庫(角川春樹事務所)
ISBN  : 978-4-75844197-1
発行日 : 2018/9/3

『腐男子先生!!!!! 2』[瀧ことは/ビーズログ文庫アリス]

「小説家になろう」書籍化作品(本編完結・番外編更新中)、1年3ヶ月ぶりの新刊発売。今回はコミック&文庫2巻を紙で買うと期間限定オーディオドラマが聞けるという特典あり。一方電子書籍版はおまけSSが1編収録されてます。

内容は、朱葉が進級して桐生先生が担任になって、という状況変化が。登場人物も1巻の面々に加えて恋敵!?のリア充同級生や「ぱぴりお」(朱葉のPN)のファンな後輩が登場し、1巻とはまた違った関係性が見えてくるのも良い感じ。らぶ方面では、朱葉と桐生の関係が鈍足ながらも進展していてとてもニヤニヤしました。あと、この作品の最大の特徴というかなんというかなオタクネタは、やっぱり読んでて共感しやすいですね。オタク的時事ネタがあれこれ散りばめてあるので、「これは間違いなく○○として、あれは多分■■かなー」的な楽しみ方もできるし、作中のオタトークには今回もそうそう、わかるわーとなることが多かった。「転売屋は殺そう」には同意しかない。
オーディオドラマはまだ聞いてないのですが、電子特典は桐生と秋尾とキング3人の気のおけないオタク友達同士のやり取りに加えて桐生の朱葉に対する想いも描かれてて満足。

本編完結(朱葉の卒業)まで、オタクネタが古くならないうちに文庫化されることを願ってます。

作品名 : 腐男子先生!!!!! 2
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著者名 : 瀧ことは
出版社 : ビーズログ文庫アリス(KADOKAWA)
ISBN  : 978-4-04-735294-0
発行日 : 2018/9/15

宝塚月組「エリザベート」を観てきた話。

言わずとしれた人気演目&月組トップ娘役愛希さんの退団公演ということで、チケット確保難しいだろうなあと思っていたのですが、友の会がおともだちになってくれたので、運良く観劇できました。ちなみに、過去の同演目はamazonの配信で観ましたが、東宝等含めて劇場で観るのは今回が初めて。以下、過去の演出にも特にこだわりがない&歌の良し悪しはよくわからない人間の、ふわっとした簡単な箇条書き感想。
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『百鬼一歌 月下の死美女/都大路の首なし武者』[瀬川貴次/講談社タイガ]

まもなく武士の世が始まろうとする平安時代末期。歌人の家に生まれ、天才歌人として誉れ高い希家が、ひょんなことから知り合った宮仕えの少女・陽羽とともに、都を騒がす怪異の謎を解き明かしていく、というシリーズ。1巻(死美女)発売から約1年経った先月、2巻(首なし武者)が発売されたので、シリーズ化確定したのかな?

1巻は登場人物紹介の側面が強くて、ラストの引きは気になるものの正直そこまで好きな雰囲気の作品ではないかなあと思っていたのですが、2巻は不思議と「あれ、なんか面白いぞ…!?」となってました。登場人物の関係や性格が頭に入ったからか、単純にお話が転がりだしたからか、それとも歴史的背景が前巻以上に出てきてツボにはまったからか………多分、これ全部ですな。
お話としては、1・2巻ともに平安末期の事情や動乱をうまく絡めて怪異(とされる事件)が成立しているので、謎が解き明かされるとすっきり納得できるのが良し。探偵役の立ち位置にいる希家(頭脳派)と陽羽(肉体派)ですが、ふたりがなんだかんだと自分の事情や感情で動きながら事件を解きほぐしていく過程や決着の付け方に、「怪異」側の事情もできるかぎり汲みつつ話を進めるあたりに彼らの人の良さが感じられて、好印象。あと、1巻では色んな意味で「あー………」となった希家の義兄・寂漣。2巻で彼なりの考えが明かされはしたものの、今はまだ影に隠されたそれが表に出ることになるのか。そうなったときの希家や彼に縁の人々の反応含めて気になるところ。

3巻は出るとしたら、また1年後かな。作中の時計の針がどこまで進むのか、2巻はちょっと蚊帳の外だった希家に主人公としての巻き返しはあるのか。楽しみです。

作品名 : 百鬼一歌 都大路の首なし武者
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著者名 : 瀬川貴次
出版社 : 講談社タイガ(講談社)
ISBN  : 978-4-06-294118-1
発行日 : 2018/7/20