2月4週目の購入メモ。

『ピクテ・シェンカの不思議な森 はじまりは黒馬車に乗って』[足塚鰯/集英社コバルト文庫]【amazonbooplebk1
『アンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]【amazonbooplebk1
『アルワンドの月の姫 砂漠の王子と銀の杖』[ながと帰葉/集英社コバルト文庫]【amazonbooplebk1
『黄金旅風』[飯嶋和一/小学館文庫]【amazonbooplebk1
『夢のような幸福』[三浦しをん/新潮文庫]【amazonbooplebk1
『Yom Yom vol.6』[新潮社]【amazonbk1
『犬はどこだ』[米澤穂信/創元推理文庫]【amazonbooplebk1

『黄金旅風』の文庫版今月発売だったの見逃してた!というわけで、気がついたときにさっさと購入しておく。
あと、今月最後のお楽しみはやはり「十二国記」新作掲載の『Yom Yom』。数年ぶりでも、「ああ十二国記だ」とすっと入っていける雰囲気が嬉しいですねー。

『明治バベルの塔 山田風太郎明治小説全集12』[山田風太郎/ちくま文庫]

 山田風太郎明治小説全集12巻目は短編集(ちなみに、連作形式ではありません)  収録作は幸徳秋水と黒岩涙香が自社の新聞「万朝報」の売上げを伸ばすために仕掛けた暗号懸賞によって起こる騒動を描いた表題作に加え、李鴻章狙撃犯・小山六之助の監獄生活を漱石の文体模写で描く「牢屋の坊っちゃん」、牛鍋屋チェーンを経営する木村荘平が新商売として始めた新式火葬場、その栄えある(?)第一号の客を求めて社員が右往左往する「いろは大王の火葬場」、幸徳秋水を4つの要素から描いた「四分割秋水伝」、そして伊庭想太郎が星亨暗殺事件に至るまでの軌跡を描いた「明治暗黒星」の5つ。このうち、初出時は別の作品集(『明治忠臣蔵』)に収められていた「明治暗黒星」を除く4作品については、作者自身の所感も収録されています。
 数ある明治モノの中では比較的地味というか、小粒な作品集という印象があるようなないような(←つーか冷静に考えて、このレベルでそういう印象が残るってどれだけ贅沢ですかと自己ツッコミ) とはいっても、どの作品も面白いことには間違いないんですけどねー。

 個人的に好きなのは表題作「明治バベルの塔」と「明治暗黒星」。「明治バベルの塔」は、涙香たちが考える暗号もさることながら、教科書にも載っている某有名事件も話に絡んで描き出されるそれぞれの立場や思想が生み出す齟齬が、のちの彼らを思うと一層興味深い。何気に小ネタも詰まってるし。
 「明治暗黒星」は、変わらない男と変わった男、あるいは変われなかった男と変わることができた男の人生の交錯が生み出した悲劇、というところでしょうか。かつて見下していた男の立身出世に対する嫉妬や劣等感、そして自身の信念やままならぬ人生に対する思い等が渾然一体となり、さらに伝え聞く悪評に後押しされて凶行に至るまでの過程が描かれていくのですが……良くも悪くも旧来の思想で凝り固まった伊庭の行動が滑稽でもあり哀れでもあり。最後に明かされる事実が二重に痛烈。
 他、その着想もさることながら導入と終幕の演出がまた良い味になっている「牢屋の坊っちゃん」、明治の一時期に的を絞った小「人間臨終図巻」(作者談)ともいえる「いろは大王の火葬場」や、実験小説的な手法で幸徳秋水の人間像に迫った「四分割秋水伝」と、それぞれの趣向が楽しめます。

『ばいばい、アースIV 今ここに在る者』[冲方丁/角川文庫]

 様々な特徴を備えた種族が暮らす世界で、いかなる種族の特徴ももたない「のっぺらぼう」の少女ベルが己の由来を探す旅に出るまでの物語、第4巻にして完結巻。

 今回収録部分は、「剣の国」で起きた騒乱あるいは「神」への反逆の決着と、ベルが「旅の者」として旅立つまで。この作品最大のクライマックスが収録されているだけに、見所は山ほど&内容も盛り上がることこの上ない巻でした。とりわけ、シェリーの在り様の変化と、それを経て彼女の歌に繋がっていく流れは、何度読んでも凄まじいまでの迫力と覚悟を感じます。一方、ベルとアドニスの剣戟もいよいよ最終幕に。ここでの一番の名場面はやはり、ベルの一刀であのスペルが別の形を現すところかな。あれは、妙に納得するというか、上手い具合に使うなぁと思いました。
 そして、エピローグで描かれるのは、ベルと「剣の国」で彼女と関わった人々との別れと旅立ち。描かれる数々の別れは、ベルと周囲の絆や成されたこと、それぞれがそれぞれの形で自然と思い起こされてくるというか、ちょっとしんみりとした気分になります。そして、しみじみと別れをかみ締めた後に、新たな経験、新たな戦いへの期待を感じさせるところがまたにくいよなーと思ったり思わなかったり。

 さて、これにて「剣の国」でのベルの戦いは終幕と相成りました。しかし、この先も「旅の者」となった彼女の戦いは続いていくわけで。キティの念願が叶うのかも気になりますし、またいつか、彼女の新たな戦いを目にすることができれば良いな、と思います。

作品名 : ばいばい、アースIV 今ここに在る者
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著者名 : 冲方丁
出版社 : 角川文庫(角川書店)
ISBN  : 978-4-04-472907-3
発行日 : 2008/2

『BLACK BLOOD BROTHERS (S)5 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ短編集-』[あざの耕平/富士見ファンタジア文庫]

 吸血鬼と人間の共存地帯『特区』を舞台にした吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ短編集第5巻。

 雑誌連載分の収録となる4編は、今ではもう遠い日々となってしまった、特区でのミミコたちの日常風景が懐かしくも楽しかったです。4巻ほどアレな内容ではないけど十分笑えるし、全体的に肩の力を抜いて面白く読めました。
 書下ろしの過去編「月と太陽のモンタージュ」は、第二次大戦後から香港返還直前までの人類の軌跡を、寄り添うように変化を余儀なくされていく吸血鬼たちの視点で描いた様々なエピソードで繋いだ連作形式。歴史オタクにとっては、非常に楽しめる作品でした。歴史上の人物はおおむね名前が出てくる程度だったのは少し残念だったけど、まぁそうそう歴史的共演なんてあるわけないから仕方がないか。エルネスト氏が登場しただけでも儲けモノだろう。うん。
 勿論、そういう要素だけではなく、本編に繋がっていく様々な流れも興味深くて。中でも、明かされた「豪王」誕生の経緯は、予想していたものとは違っていて良い意味で驚かされました。加えて、本編でお馴染みの面々に加え、既に舞台を去っているor表立っての介入はしてきていない大吸血鬼の人となりや在り方、あるいは変わり行く世相を反映したそれぞれの血族の岐路や立ち位置などを知ることができたりしたのも良かったです。ああそれから、なんとかハンス君に生き残って欲しくなったんですがどうしましょう(←ああいう話に弱い人)

 さて、次は本編になるのか、短編集になるのか。どちらにしても待ち遠しいことには変わりないので、できるだけ早く発売されると嬉しいなー。

作品名 : BLACK BLOOD BROTHERS (S)5 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ短編集-
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著者名 : あざの耕平
出版社 : 富士見ファンタジア文庫(富士見書房)
ISBN  : 978-4-8291-3254-8
発行日 : 2008/2/20