『誠実』が家訓の地味な子爵令嬢コンスタンス(愛称コニー)が、とある夜会で婚約者の浮気を目撃し、おまけにその浮気相手から濡衣を着せられて絶体絶命の危機に。その時、十年前に処刑された希代の悪女スカーレット・カスティエルの亡霊がコニーの前に現れた。あっさりとコニーの危機を救ったスカーレットがコニーに要求した代償は、彼女の復讐に協力することだった――という導入からはじまる物語。「小説家になろう」で連載されていた作品(本編完結済)の書籍化。
「なろう」発で流行りの悪役令嬢転生モノと異なるのが、コニーとスカーレットがそれぞれ独立した意思を持って存在していることでしょうか。転生ものは私が読んだ範囲(それほど多くは読んでない)では前世の意識に今生のそれが塗りつぶされてしまうことが多かったから、ちょっと珍しいと思いました。
で、スカーレットの処刑が冤罪によるものだった(ただし、それ以外の「伝説」も虚偽というわけではない)ということで、事件の犯人探しをはじめたコニー&スカーレット。その過程で入手した、自殺したスカーレットの友人・リリィが密かに残していた遺言――「エリスの聖杯を破壊しろ」という謎の言葉を発端に大規模な陰謀劇に踏み入っていくことになるのですが、これが程よく力が抜けているというか、良くも悪くも深刻な雰囲気になりすぎない。また、コニーとスカーレットの凸凹だけど意外と相性のいいコンビや、スカーレットの旧知でもありひょんな出会いからコニーとは思わぬ縁になるランドルフをはじめ物語に登場する貴族社会その他の面々等のやりとりもなかなかに軽妙な一方、描写から彼ら彼女らの行動がそれぞれの信念やら打算やらに基づいてのものだとしっかり伝わってくるのが良い感じでした。
謎をばらまいた挙げ句にわりととんでもないところで以下続くになっているので、近いうちに続きも書籍化されますように。……しかし、続刊前提なら素直にナンバリングしてくださいとちょっと言いたい。