Fateシリーズ派生作のひとつ。Fate/ZEROと同じくTYPE-MOON BOOKS(自費出版)で発売されていたシリーズの、一般流通書籍版。
内容は、第四次聖杯戦争で生き残った少年ウェイバーが、諸々あって「時計塔」の君主(ロード)・エルメロイⅡ世(以下、ロード)となってさらに数年後。第五次聖杯戦争が始まる少し前に、必然として遭遇する様々な魔術的事件を解き明かしていく、広義のミステリ。Fate派生作品としては、他作品が本編と多かれ少なかれ本編と「ずれた」世界の物語とされているのに対して、この作品は同一軸で展開されているのが特徴。
で、この1巻。ロードの内弟子であるグレイを主な語り部として、死去したある魔術師の「遺産」に絡んで発生した事件が展開されていきます。ミステリとしてはまあ、前提条件として魔術が実在する世界ですし読者側に必要な情報・知識が適切に開示されているかといえば首をひねることになってしまいますが、ロードがあれこれと考察する場面等でミステリ気分は問題なく味わえるかと。
Fate他TYPE-MOON作品の一角を担う作品としては、タイトルにもなっているロードだけでなく他作品のキャラの出演や世界設定の補強・掘り下げ等が物語を邪魔しない程よい分量で盛り込まれているので、読んでてニヤリとできます。逆に、そのあたりの情報がまったくない方がどう感じるのかはちょっと気になる。
キャラクターとしては、時間を経ていろいろ変わったところもありつつ、根っこの部分はわりとそのままなロードの姿が実に好み。終盤の「ボク」と「私」が入り混じった一連の語りの場面とかラストのとある人物に返した言葉とか読むと、最終的には……なのが分かっていても彼の夢が叶うことを願いたくなりますね……。あと、事件簿が初登場となるグレイやちょっとだけ登場したロードの義妹ライネスは、あらためて読むとグレイに関しては意外な素性が明らかになったりアドラでの出来事を通して精神的な変化が描かれたりはしたけれど、まだ顔見せ程度で各自の色はさほど出ていない印象。まあ、彼女たち(そしてこの後の巻で登場する面々)については今後のお楽しみということで。
アニメ化が決定している5冊目までは毎月発売されることが決まっているようなので、のんびりシリーズ再読するつもり。自費出版版最終巻も今月発売される予定なので、楽しみにしてます。