富士見ファンタジア文庫で「勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。」シリーズを刊行されていた作者さんの新作。ねぎしさんのイラスト効果もあって手にとってみました。
時は明治、文明開化の世。身内を亡くし、維新前から続く家業の料理屋を従兄に乗っ取られた少女・柚子が、従兄を見返し「人を幸せにする料理」を拵える料理人になるために奮闘する、というのがざっくりしたあらすじ。
さっくりと読めてなかなか面白かったです。あと、こういう料理を絡めた作品は流行っているせいかよく見かけますが、もともと柚子が日本料理を学んできたという設定もあって西洋料理そのままではなくちょっとアレンジしてあったり見慣れた料理でもちゃんと美味しそうな描写だったりするのが良いな、と。
登場人物としては、ときに苦境に苦しみ失敗に落ち込んでも、また立ち上がって自分にできる最高の料理を作ろうとする健気な柚子は応援したくなるヒロイン。そんな彼女の周囲にいるのは、柚子が仇敵と嫌っている従兄の俊輔、ひょんなことから面倒を見ることになった記憶喪失の青年・周、亡き兄の旧友・朔馬、料理の縁で繋がった八坂院兄弟などなどタイプの異なる良い男が揃っていて、それぞれの立場から彼女の料理道に関わってくるのが、作者さんの言葉を借りれば「ちょっぴり昔の少女漫画風味」で実に楽しい。正体というか設定については隠す気ないだろうな勢いで情報が開示された一応メインヒーロー兼柚子のアドバイザー的立ち位置にいる周は、次巻以降で失われた記憶と抱える事情が徐々に明きらかになっていくんだと思いますが、この設定だと最後はどうなるんだろう……年齢的に実は○○とか▲▲とかいうのは難しい気がするしなあ。あと、ちょこちょこ描かれる描写から読者的にはわりとすぐおや?となる俊輔さん。柚子の父兄の死にも絡んできそうな、彼が内に秘めているものも気になるところです。
さて、実家の料理屋を心ならずも後にし、縁あって任された洋食屋「じゃぽん」で働くことになった柚子。彼女の奮闘がまた近いうちに読めますように。