夕鷺かのうさんの新作は、ここ最近少女小説の主流となっている姫嫁もの……ですが、やはりこの作者さんだけあって少しばかり毛色の違った話でした。
かつて恩を受けた瓜二つの姫君シレイネの身代わりとして、敵国に輿入れすることになったフェルディア。果たして彼女は「白い結婚」の間に策略家として名高い夫(仮)、クロウと離婚することが出来るのか!?と、まぁ導入はそんな感じ。
展開的には、この手のお話の王道に近い印象でしたが、とりあえずフェルが良い主人公でした。わりと万能というか器用貧乏というか、大抵のことには自力で対処できる能力の持ち主。書き方によっては引っかかりを覚えそうなものですが、身代わり訓練を突貫で受けたものの根っからの庶民でほどよく世間慣れしている、嫌みのないからっとした性格のお嬢さんなので、そのあたりは問題なく読み進めることが出来たので良し。また、彼女が侍女を助けるためにみせた行動は小気味がいいし、「シレイネ姫」と「召使フェル」では態度ががらりと変わる夫(仮)・クロウに戸惑いつつ惹かれていく過程にはニヤニヤしました。中でも一番印象的だったのは、やっぱり旦那様のピンチに飛び込んできたシーンかなー。あそこは挿絵効果もあってインパクト大。男前ヒロインは良いものです。
一方、彼女の相方となる旦那様はというと、今巻では明らかになってない事情も抱えていそうな、ドSというかひねくれ者系というか。まぁなんというか、途中で絶対気がついてるよなこれ!と思ってたら案の定だったことが終盤で明かされて、それを踏まえて再読したら、いろんなシーンでまたニヤニヤできました。
一冊完結でも問題のない作りにはなっていますが、最後の独白からしてこれから攻勢を掛けてくる(と思われる)クロウと彼に惹かれつつも基本的には円満に(?)離婚して故郷に帰るつもりでいるフェルの今後が気になるので、続きが出ればいいなーと思います。……あと、明らかに一筋縄ではいきそうにない本物のシレイネ姫(今回は回想や伝聞のみだった)とその兄であるユナイア王の暗躍にもちょっとばかり期待したいところ。