舞台が吉原ということでちょっと気になってはいたルルル文庫新人さんの作品。なんちゃってだったら嫌だなぁと思ってたのですが、周りの評判も悪くなかったので購入しました。
吉原が舞台ですがいわゆる濡れ場はほとんどなし(ヒロイン格となる少女・末葉が水揚げ前の禿だというのもあるかもしれませんが、まぁ、レーベルの問題が大きいのでしょうね……) しかし、苦界に囚われた女性たちの悲痛な嘆きの声が、どこからともなく聞こえてくるような雰囲気はよくできてると思いました。
「視る」能力を持つ吉原の中見世「雪柳」の伎有・弥太郎は、ある日、天才的な仏師に身受けされた花魁・東雲が不審死したと、仏師の弟子だという男から聞かされた。生前の東雲と親しかったわけではないが、交わした会話が記憶に引っ掛かっていた弥太郎は、彼女の死の真相を探ることにした――というのがとてもざっくりとしたあらすじ。
事件の真相は、トリック云々よりもそこに至った経緯・関係者たちの心情が「ふむふむなるほど」という感じでした。正直、もう少し書きこんであっても良かったようなと思わなくもないけど、そうなると完全にルルル文庫のカラーじゃなくなるなぁとも思うので、適度にしっとりさっくりなこれぐらいでちょうど良かったのかもしれません。
登場人物については、主人公の弥太郎と末葉をはじめ、友人の絵師・八重垣や末葉の姉女郎・夜菊などのサブキャラ、その他脇役がそれぞれ味があってよかった。個人的には夜菊姐さんが好きです。ぼんやりしてるというか難しいことは考えてないというか、まぁ、そういう人なんですが、この人のそれって生まれ持った性質以上に自己防衛の末の産物なんだろうなぁというのがなんか切なくてね……。おにぎりの話は、ちょっとじんわりしました。あと、何気に「雪柳」のおかみさんとか弥太郎の同僚の吉次さんとかも好き。
お話としてはこの一冊で完結でも、シリーズ一作目でもいけそうな。弥太郎の背景とか思わせぶりに匂わせてるだけだし、シリーズ化してその辺が語られるといいな、と思います。