火山灰が空を舞い、昼は赤い太陽が毒々しく輝き、夜になると霧に覆われる「終の帝国」。千年に渡って老いることなく君臨する神のごとき支配王と貴族たちの圧政に虐げられ、奴隷階級の民スカーの大多数はもはや反抗する気力も失くしていたが、ある男の登場がその状況を変えようとしていた。
一方、帝都の盗賊団に身を寄せている少女ヴィンは、人の心を落ち着かせることができる不思議な能力があった。「幸運」と名付けたその力を密かに使いながら、目立たないように生きてきたが、首領が大がかりな詐欺を行った事をきっかけに大きな流れに巻き込まれていくことになる。
アメリカで発売されたファンタジー小説「Mistborn」三部作のうち、第一部にあたる『Mistborn: The Final Empire』を三分冊しての翻訳。ちなみに、全三部作をまとめて「ミストボーン・トリロジー」と呼ばれていたりもするそうです。通っているサイトのいくつかで好意的に紹介されていたのが気になっていたところに、おむらさんがプッシュしてらしたのが駄目押しとなって3巻一気に購入&読破。
1巻を読み始めたときは、内容的にはまだ導入&ちょっと硬めな翻訳文の影響もあってか、面白いけれどちょっとかったるいかなーと思っていたのですが、読み進めるにつれて次第に盛り上がっていく展開に目が離せなくなりました。……まぁ、もともとは1冊の本を三分冊しているわけだから、後半の巻き返しがすごいのはある意味当たり前かもですが。
2巻までは体内に取り込んだ金属を燃焼させて様々な現象を引き起こす「合金術」の使い手たち――特に「霧の落とし子」と呼ばれる、合金術用として知られる10種類の金属全てを燃やすことができる能力者たちの繰り広げる戦闘や駆け引きを、映像化されたら見栄えしそうだなーと思いつつ楽しんだり、スカー盗賊団の伝説的・カリスマ的存在で帝国転覆を目論むケルシャーとその仲間たちの動向にどきどきはらはらし、情報収集のために貴族に扮して社交界入りしたヴィンのほのかなロマンスにニヤニヤしたり、とわりと平和に楽しんでいたのに、3巻に入ってからは怒涛の展開で……いやもう、凄かった。特に、ケルシャーVS尋問官とかなにあれ。その前にあった成長著しいヴィンが繰り広げた激しい戦闘すら霞むほどに印象が強かったですよ。ケルシャーはある意味裏主役だから、存在感あるのは分かるけどさ! さらに、反乱計画の陰で注意深く準備されていた彼の真意が明らかになった瞬間は……そうくるかー!という感じでした。そして迎えたクライマックス、支配王との直接対決は……自身の無謀のツケもあって幾度も危機に陥りながら、なお諦めずに不死の王に挑むヴィンと、彼女の助けとなった人々の姿と意志には否応なくテンションが上がりました。しかし、セイズドはいちいち美味しいところを持っていくなぁ。兄貴’sも……うわああん、という感じだったし……。
終の帝国を相手にしたヴィンたちの戦いはひとまず幕を閉じましたが、まだ明かされていない謎も多くあり……続刊の翻訳が待ち遠しい限りです。