先日拝見した、「男性にオススメのファンタジー」(by 宵の徒然様)、「女性におすすめのSF作品10」(by なまくらどもの記録様)という記事に影響を受けて、かーなり前から書きかけては途中で力尽きて放置を繰り返していた記事を頑張って書き上げた。
ライトノベルでなんだかんだとよく見かける(ような気がする)伝奇時代小説系に影響を受けて、いわゆる一般歴史・時代小説に興味をもった人にオススメするならどのあたりがいいかなぁとぼんやり考えたまとめです。(そのまま制限なしだとキリがなくなったので、「一作家一作品」、「ある程度『現実』との接点がある」、「より娯楽性が高いもの」、「入手難易度低め」という自分ルールを導入する。)
ああそれから、「何でこの作品or作者が入ってないんだ!」とか「この作者ならむしろこれだろう!」というご意見も多々あるとは思いますが、あくまで個人的な好みで選んだのであしからずー。
『国盗り物語』(全4巻)[司馬遼太郎/新潮文庫]
この分野を読むなら、なんだかんだでこの人は避けられんだろうという国民的作家・司馬遼先生の著作からは、代表作(多数)の中からこちら。信長登場前後の情勢や本能寺までの流れがざっくりとでもつかめるし(それが史実にどの程度忠実かどうかはさておき)戦国時代の小説としては鉄板ものなので、よほど司馬遼が嫌いでなければ是非ご一読をオススメしたい。
一介の油売りからやがて一国の主にまで成り上がった斎藤道三と、彼の後継者的存在である織田信長、そして明智光秀の物語。ちなみに、もともとは道三の生涯を描くという構想ではじまったそうで、あとから追加(と言うと表現がアレですが)された信長・光秀編は若干作品のノリが変わってしまうような印象があり。まぁそれでも面白いけど。
前編は道三が様々な権謀を駆使してのしあがっていく過程で、こちらは単純に面白い。後編は信長に敬服しつつも価値観の違いからやがて謀反を起こすまでに至った光秀の心情につい同情してしまう(私、光秀そんなに好きじゃないんですがねー)
なお、斎藤道三を扱った小説としては、宮本昌孝の「ふたり道三」という時代伝奇もあって、こちらもなかなかオススメの作品です。
『警視庁草紙』(上下巻)[山田風太郎/ちくま文庫]
山風先生についてはこれまでもさんざん語っているのですが、まぁそれはそれとして(適当)
「江戸」から「東京」に名前が変わって間もない明治の御世。ひょんな出来事から始まった、元南町奉行・駒井相模守信興(通称隅のご隠居)と元同心の千羽兵四郎たちと大警視・川路良利率いる警視庁との知恵比べ。あるいは、個人と国家の物語か。最初のうちは、事件を挟んで警視庁の面々をあの手この手でからかい出し抜くご隠居たちの姿がなんとも痛快というか、ニヤリします。が、それだけでは終わらずやがて浮かび上がってくるある思惑、川路の鉄壁の意思、ある登場人物の選択等を経て描かれるラストシーンは、まさに面白うてやがて哀しき、だなぁと思います。あと、虚実様々な人物の交差も見どころの一つです。
「剣客商売」(全16巻)[池波正太郎/新潮文庫]
「鬼平」「梅安」と並ぶ池波先生の代表シリーズ。個人的には梅安のほうが好きなのですが、肩の力を抜いて楽しめるのはこっちかなぁと。それに、三大シリーズの中では唯一エピソード未完でもないしね!(涙) そんな嘆きはさておき、話としては無外流の老剣客・秋山小兵衛とその息子の大治郎、そして彼らを取り巻く人々が、江戸の町を舞台に様々な事件と関わりを持ち解決していく、という連作短編。番外編も2つあり。
老いてなお盛んな小兵衛の魅力もさることながら、実直な好青年・大治郎が人間的に大きくなっていく過程がまた楽し。あと、別段筆を費やしているという感じでもないのに、妙にお腹が減ってくる食事の描写も印象深いです。そしてなにより、男装女剣士の三冬様が素敵かわいいのです。三冬様が素敵かわいいのです。大事なことなので二度言いました。
「柴錬捕物帖 岡っ引どぶ」(全2巻)[柴田錬三郎/講談社文庫]
柴錬なら代表作は「眠狂四郎」あたりかと思いますが、あれはちょっとニヒニズムが強いような気がする。『御家人斬九郎』なら陽性でいいんじゃないかと思うんだけど、こちらはあいにく品切状態で入手難易度がやや高め。というわけで、先にあげた2作と比べると若干知名度は低いかもしれませんが、入手容易なこちらを。
内容は、本名は誰も知らず、家もなければ家族もいない。おまけに飲む、打つ、買うの三拍子揃った、ほとんど無頼者のような岡っ引き「どぶ」。彼の度胸と腕っ節を買って引き立てたのは、天才的な推理力を持つ与力・町小路左門。この二人が江戸の町で起こる奇怪な事件を解決していく捕物帖。どぶは時には悪人と手を組んで悪さを仕出かすなどとても品行方正とはいえないのですが、それでも弱者に対してはたかったり酷な仕打ちはしないという一面もあり。一方の左門は名門生まれでおまけに眉目秀麗・頭脳明晰ながら、失明のため本来の地位を返上し町方与力の職についたという、なんだか底が知れない人物。この癖のある二人が、故あって武家絡みの怪事件に関わっていくのですが……いわゆる人情ものとは一線を画したどこかニヒルな雰囲気の捕物帖で、なかなか面白いです。
『風雲海南記』(全1巻)[山本周五郎/新潮文庫]
周五郎作品は代表作の『樅ノ木は残った』とか『赤ひげ診療譚』とかあのあたりを筆頭に傑作・佳作はごろごろありますが、単純に娯楽作として読むならまぁこれも良いよなーぐらいのノリで選んだ。
四国西条藩主の家系に生まれながら双子であったために、浅草の寺に預けられた英三郎。己の出自を知らずに市井の浪人として成長した彼だが、偶然が重なり知らず知らずのうちに西条藩の御家騒動に巻き込まれることに――という筋立て。周五郎作品の中では変わり種な作品ではありますが、冒険ありロマンスありの内容で、まぁ小難しいことはあまり考えずに楽しめる正統派の娯楽小説、という感じですね。
『よろずや平四郎活人剣』(上下巻)[藤沢周平/文春文庫]
時代小説ならこの人も忘れちゃいけない、藤沢周平。どれにしようか悩んだ挙句、これを引っ張り出してきた。
旗本・神名家に生まれながらも、冷や飯食い(次男以降の男子)でしかも妾腹の子であるため肩身の狭い思いをしていた平四郎。あるとき実家を出奔し、裏店に棲みついたまではよかったものの、今度は先立つものがない。考えた末に「よろずもめごと仲裁つかまつり候」と看板を掲げて始めたなんでも屋稼業。持ち込まれる様々な事件を、口と剣とで解決していく平四郎の姿を描く連作短編。また、連作短編ではありますが、天保の改革・蛮社の獄やあるいは平四郎の元許婚との関係の行方など、物語全体を貫く糸もあり。
作者の円熟期に描かれた作品のひとつで、程よいユーモアを添えて描き出される当時の人々の暮らし向きや心の動き等が実に良い。権力争いやなんやかんやもありますが、全体としては肩の力を抜いて楽しめる一作。
『風魔』(全3巻)[宮本昌孝/祥伝社文庫]
読後感爽快な時代活劇といえば、この人を連想することが多くなってるような気がする作者氏。選んだのはこの前文庫化されたばかりのこちら。……文庫版が復刊されれば『剣豪将軍義輝』も良かったんですけどね……。
内容は簡単にまとめてしまうと、豊臣勢による小田原包囲のころから始まり、家康による天下平定がほぼ完成するまでの時代を、その人並み外れた技量と守るべき仲間たちとともに駆け抜けた快男児・風魔小太郎の物語、かな。末期とはいえ戦国乱世、血なまぐさい事態にもなっているんだけれど、そこに小太郎が登場すると不思議と風穴が空いたようになってしまう不思議。……というか、宮本作品のたいていの主人公に共通して言えることですが、この作品の小太郎もとにかく快男児を絵に描いたような人なんですよねー。その好人物ぶりと図抜けた技量、そしてあくまで自分の生き方を貫く姿は、それぞれの信念や欲望から彼と相対する敵味方も(意識してるかどうかはともかく)少なからず影響を受けているほど。なんというか、人徳だねぇ……としみじみ思う。風魔一党と彼らと敵対する集団との戦闘も多く、チャンバラ的にも楽しめる一作。
『黎明に叛くもの』(全1巻)[宇月原晴明/中公文庫]
日本史とユーラシア神秘主義の融合という離れ業を毎回毎回あっさりさっくりやってのける、時代伝奇・幻想小説界期待の星(勝手に認定) 文庫化された中では、これが一番派手かな?という判断で選んだ。なお、『天王船』という番外編4作を修めた作品集もあり。こちらは短いのでさっくり読めます。
内容は、密かに日本に伝来した邪法「波山の法」(フレグ率いるモンゴル軍に攻略され根絶やしとなったはずの暗殺術)を習得した二人の若者――後の斎藤道三と松永久秀が、天下を手にする野望を胸に戦国の世へと躍り出る、というもの。「黎明に叛くもの」の矜持と悲哀をもって描きだされる、煌びやかで蠱惑的な異形の戦国絵巻をご堪能あれ。
あ、ちなみにこの作品、『国盗り物語』へのオマージュでもあるので、合わせて読むのもまた面白いかと。
『魔岩伝説』(全1巻)[荒山徹/祥伝社文庫]
ここ数年、私的にシャレとネタの分かる人にオススメしてみたい(いろんな意味で)作家No1の地位を確保し続けている荒山徹先生。新作を読むたびにあまりのひどさに爆笑するという、なんだか間違った楽しみ方をしているような気がしなくもないんですが、ネットで感想を見る限り同士はそれなりに数がいるようなのでなんとなく安心する(それもどうなんだ)
で、この魔岩伝説ですが、某桜の彫り物を背負った有名人(まだ自由気侭な若者時代)を主役に、日本、朝鮮を股にかけた一大冒険・伝奇時代小説。朝鮮妖術と俺柳生はまぁ最近ではもはやデフォルトになってるのでとりあえず横に置いておくとして(置くなよ)、初期作ということもあってかだいぶ大人しいです。少なくともやりたい放題やりすぎな最近の作品に比べると大人しいです(「でもひどいことに変わりはないだろう」という意見は認める) あと荒山作品全般に共通して言えることですが、真面目なところはちゃんと真面目に楽しめます(ネタ部分がアレすぎるのであまり目立たないだけで) ……それにしても、最終決戦の地となる日光東照宮でのアレは真面目に吹く。思わず脱力&ツッコミいれた人多数なんじゃないだろうか(笑)
『三悪人』(全1巻)[田牧大和/講談社]
手に取ったきっかけは忘れましたが、何気なく読んで意外なほどに面白かった一冊。07年に小説現代長編新人賞でデビューされた作家さんだそうで、今後要注目。
この作品の内容はというと、ある寺院で起きた火災をきっかけに始まる、それぞれ一癖ある3人の悪人――すなわち、水野忠邦、遠山景元、鳥居耀蔵が繰り広げる化かし合い。
鳥居が他の2人と比べてやや大人しめなのがちょっと残念ではあるけれど、縁ある女のために一肌脱いだ金さんの男前な活躍や、裏から手を回して自身に有利なように事を動かそうとする水野の動きはドキドキハラハラできて面白い。そのうちでいいから、続編があると嬉しいなーと思う一作です。
『小説十八史略』(全6巻)[陳舜臣/講談社文庫]
中国歴史小説の書き手は大勢いますが、やはり大御所はこの方だろうということで。
この作品はまぁその名のとおり、中国は元朝の頃にまとめられた歴史書『十八史略』を、隙間を空想と推論で補いつつ小説に仕立て直した作品、というところでしょうか。南宋滅亡までの中国の歴史をざっくり読むことができるので、中国ものの入門にはちょうど良いかも。……ただ、下手にマイナーな時代に興味を持ってしまうと「誰か何か読ませてくれー」という状態に陥りますが。
『楽毅』(全4巻)[宮城谷昌光/新潮文庫]
最近は日本史や三国志などにも手を広げておられますが、春秋戦国時代で著作が多い作者氏の作品からはこれを。燕の昭王に仕え、当時大国であった斉を滅亡寸前まで追い込んだ稀代の名将の、「見事」の一言に尽きる生き様が描かれています。また、斉の宰相・孟嘗君もキーパーソンとして登場しているので、同作者の『孟嘗君』も読むとまた楽しめるかと。
個人的には、面白いというよりも巧いというほうがしっくりくる作品なのですが、一度読み始めると最後までつい読んでしまうので、やはり面白くもあるんだろうなぁ、と思います。……しかし、宮城谷作品は面白いんだけど本題に入る前に筆を使いすぎだよね、とたまに思う。いや、前段階も面白いんですが、普通に考えればもう少し照準が当たると思われる部分ももう少し詳しく読ませてください、みたいな。
『楊家将』(上下巻)[北方謙三/PHP文庫]
物語の舞台は10世紀、ようやく中国大陸統一を成し遂げた漢民族系の北宋と北方遊牧民族の遼が領土争いを繰り広げていた頃。名将・楊業率いる楊家軍が、宋内部の奸臣たちに足を引っ張られながらも遼との間に激しい戦いを繰り広げる、という内容。『血涙』という続編があったり、『水滸伝』『楊令伝』と繋がりがあったりもする。
北方版翻案らしく、徹底した換骨奪胎により「漢の生き様」が強調されている、とでもいいましょうか。とてもハードボイルドです。そうして描き出される「漢の生き様」は、なんか「いやもうこれかっこよすぎだろ!」と時には鼻につくこともあるのですが、そこが面白いから仕方がないよねーみたいな(適当) あと、楊家だけではなく他の登場人物たちもそれぞれの味があって魅力的。耶律休哥は格好良すぎると思います。
『泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部』(以下続刊)[酒見賢一/文春文庫]
何でそんなに日本人は「三国志」が好きなのかと疑問に思うぐらいにいろいろ作品が出ていますが、正統派ばかりではなくなかには思わぬ色も……じゃなくて、変わり種も混じっているわけで。ここ数年発売された中ではトップクラスの変わり種(と勝手に思っている)がこちら。通称「酒見三国志」。
この作品の特徴は、やはり作者の遊びっぷりでしょうか。基本的な話の筋は普通の三国志とほとんど変わりないはずなのに、何でこんなにわけが分からないアホな小説になってるんだろう……と不思議になってくるぐらい。常識人はいないのか!というぐらいに変人揃いの登場人物に、ツッコミいれたり話がそれまくったりの地の文で「いやまてそれおかしいだろ!」ということが実しやかに語られる、三国志をディープに知っている人ほど爆笑度上昇必至の一冊です。
『イスタンブールの群狼』『イスタンブールの毒蛇』[ジェイソン・グッドウィン/ハヤカワ・ミステリ文庫]
最後は、ジャンル的にはミステリなのですが、個人的には半分以上海外時代小説として読んでるこちら。
時は19世紀、近代化の進む西欧諸国とは対照的に、未だ中世の夢にたゆたうオスマン帝国の都・イスタンブール。この町で起きた事件の謎を、宦官のヤシムが解き明かしていく、という筋立てのミステリ小説。各章がわりと短く視点がころころ変わってしまうので、慣れるまではちょっと戸惑うかもしれませんが、慣れてしまえばこちらのもの。ミステリとしてはやや弱いかな?と思いますが、異国情緒あふれる描写の数々にうっとり。特にトルコ料理の描写が美味しそうで美味しそうで……。
“ライトノベル読者にオススメしてみたい歴史・時代小説。” への2件の返信