しばらく前にまろんさんがTwitterで一押しされていたので興味を持ち、さらにタイミングよく文庫化されたので購入してみた。江戸末期の新吉原を舞台に、中堅どころ(といえば聞こえの良い)の小見世・山田屋で花を売る遊女たちの、時に切なく時に残酷な運命を綴った連作短編。
とりあえず読後の素直な感想としては、「性描写がっつり濃厚やのに一番最初に出てくる感想が「雰囲気が」えろいなのが凄い。」というまろんさんの感想に同意だなーと。遊郭が舞台で遊女が主役ということもあって直接的な描写もかなり多いのですが、そういう描写よりもちょっとした仕草や行動にどきりとすることが多かった。つーか正直に言ってそーいう描写よりも、多かれ少なかれ浮世に対して達観せざるを得ない女郎たちがそれでも狂おしいほどに相手を恋い求める、その細やかなさ心情描写が切なくて惹きこまれた。そしてついでに、ティアラ文庫はこういう繊細な描写で読ませる路線も開拓してくれればいいのになーと心底思った。
まるで匂いたつように色っぽい雰囲気の中で綴られる遊女たちの想いと運命は、どれも切なかったですが、とりわけ印象に残ったのは「十六夜時雨」。何人かの女郎たちを見送ったことで、恋しい男を前に「その決断」をするに至った八津の姿に、溜息が漏れる。あと、「大門切手」も他の短編とは少し立ち位置が違う感じで印象に残った。1年後、二人の話はどんな風に続くのかと、つい想像を巡らせてしまいます。
語られなかった女郎たちにも、それぞれの人生、それぞれの想いがあったことでしょう。機会があればまた別の断片を読んでみたいと、そう思う作品でした。