須賀しのぶさんの新作は、「大陸一の女郎になる!」という夢(!?)を持ち、自ら人買いに「買われた」辻芸人の少女・フミが、哈爾濱の女郎屋「酔芙蓉」で思わぬ運命や恋に翻弄されながらも経験を重ね成長していく、波乱万丈記。携帯小説サイトSari-Sariで連載されていた作品を加筆修正しての書籍化。私は連載時は結局1回しか通読してないので(やっぱり読みづらいし、通信代もね……)だいぶ記憶があやふやなのですが、それでもあれここってこんなだったっけ?と思うところがいくつかあったので、結構手が入ってるっぽい。
当時の女性としてはいろいろと型破りなフミが、目標に向かって全力投球(ただし微妙にずれた方向に)で逞しく生きていく姿がなかなかに小気味よかった。好奇心旺盛で、人の死を前にしても「何故」と考えたり冷静に現実を見ていたりするところは、この先の彼女の運命に何か影響があるんだろうか……と彼女の今後にあれこれ思いを巡らせてみたり。それから、彼女と同時に「酔芙蓉」に買われたタエとの友情もまた良し。いや、タエは正直「流血女神伝」のサジェやサラのようになるんじゃないかと冷や冷やしていたのですが……互いに影響し支え合って強く成長していく姿が、実に素敵。この二人だけでなく、「酔芙蓉」のおかみさんや女郎たちそれぞれの生き様も印象深いものがありました。なかでも、フミが見知らぬ母の面影を重ねて憧れていた蘭ねえさんと、口は悪いけどなんだかんだで面倒見のいい千代ねえさんが……彼女たちが「酔芙蓉」から去ったシーンは思わず眼が潤みました。全体的に見て、フミの存在で若干緩和はされているものの、女郎屋の暗い面もちゃんと描かれているのはさすが、という感じです。
あと、後半の奇妙な三角関係というか、2人の男性の間で揺れるフミにもニヤニヤ。個人的には黒谷派ー。彼との間に生じる、恋ではなくても信頼や友愛などが混ざり合った微妙なつながりがとてもツボでした。つーか、このまま恋愛まで発展しなくても、いつか彼が、「芙蓉」ではなく「フミ」と呼んでくれればそれだけで満足しそうな勢い。一方、山村はどうみても怪しいよなぁと思いつつ、それでも彼が幼少時からフミのなかで大きな存在だったことは否定できないし……終盤のあの選択は、連載読んでるときはフミがどちらを選択するのか本気でドキドキした。そして、彼女の選択に納得しつつも、切り捨てたものの大きさにへたり込むフミと、そのあとに手を差し出してきた彼とのやりとりにまたじんわりくる……。
ついでに、分類:歴女なので、時折挟まれる世界情勢の描写にもニヤリとした。それにしても、この先ますます不穏になっていく世の中が、果たしてフミや「酔芙蓉」の運命にどのような影響を与えるのか、気になるところ。
秋には第二部連載開始が予定されているということで。次はどんな展開が待っているのか今から楽しみー。しかしまずは現在連載中の外伝がどういう結末を迎えるのか、そして書籍化されるのかが気になるところです。