年1冊ペースで単行本発売中の、ヴィクトリア時代の英国貴族の館を舞台にした物語、第6巻。
前半は引き続きホームパーティー編。このエピソードはなにかもっと酷い出来事が起こるんじゃないかと構えていたら、案外穏やかに終わった感じ(まぁ、読了後にはエピソードにつけられたタイトルの皮肉さ哀しさにうわぁとなったわけですが) アンナさんの突然のスタンリー家同行は、スタンリー家の素朴さ(というか一般階級の生活)とアンナさんの感覚のずれにはらはらしつつも、陰惨な感じはなかったのでどこか緊張を孕んだ雰囲気なのに割と安心して読み進められました。同時に描かれるウィルとレイチェルの関係も、表面的には何も変わっていないようで、しかし奥底の部分で変化していて……最初の頃のような痛々しさがないので、今はこの二人が自身の心とどう折り合いをつけていくのかが気になっています。それにしても、この二人は直接的な描写よりも、合間のちょっとした描写(二人の微妙な空気にベティが気がついた場面とか先生が髪を下ろす場面とか表面に出ていないウィルの感情を普通に読み取ってたりするところとか)にとてもドキドキするな。
まぁそんなこんなで穏やか気分で読了できるかと思いきや、ここから本領発揮で。スタンリー家訪問後のアンナの言葉にああ、やはり幸せ気分なだけでは終わらせてくれないのね……と遠い目をした。しかも、その後の展開がまた……レイチェルが「あること」に思い至ったとき、そしてついに吐き出された伯爵の言葉が、なんとも、なぁ……。指摘されてみれば納得というかむしろそれで当然だとも思うのだけれど、それでも今まで前提としていたことがたった一つの事実で容易くひっくり返ってしまったのが衝撃だった。正直なところ、今まで伯爵とウィルは腹の底が読めずに苦手だったのだけれど、一気に等身大の「人」になったというか、ずいぶん理解できるようになった気がする。既刊読み返したら、この二人の行動もかなり違って見えるだろうなー。……ああそれにしても、どこかの時点で何かが少し違っていれば、もしかしたら……と思ってしまうのがなんとも哀しい。絶望的なまでに相性とタイミングと……とにかく全てが裏目に出まくった二人だ。
さて、この衝撃の展開から次はどのように話が動いていくのか。次の巻がとても待ち遠しい。……というか、ある程度ハッピーエンドになるはずなんだよねこの話……そこに至る道筋が全く見えてこないけど。
作品名 : Under the rose 6 春の賛歌 【amazon ・ boople ・ bk1】
著者名 : 船戸明里
出版社 : 幻冬舎(バーズコミックス)
ISBN : 978-4-344-81648-0
発行年月 : 2009.5