月に一回・山風感想。今月は徳間文庫から発売の妖異小説コレクション(全4巻)から選んでみた。ちなみに「妖異小説」といってもオカルト的な作品ではなく、忍法帖・明治もの・室町ものの大分類に含まれない時代小説をまとめた作品集となっております。
第3巻目に当たるこの本は、もともと同じテーマの作品で括った短編集として発売されていた「妖説忠臣蔵」と「女人国(ありんすこく)伝奇」の合本。前者はご存知忠臣蔵を題材とした短編7つ、後者は吉原を舞台にした短編6つで構成されています。
『妖説忠臣蔵』は、吉良邸討入前後の関係者の姿を描いたもので、様々な立場や角度から『忠臣蔵』を描いているのが面白い。同じく忠臣蔵を扱った『忍法忠臣蔵』と読み比べるのもまた面白いと思います。個人的なインパクトでいえば、「殺人蔵」がベスト。ここで描かれる大石内蔵助の迫力は尋常じゃない。あと、最後のほうで語り手が「誰」なのか分かったときは思わずにやりとする。その他では、義挙の前に思わぬところで足を掬われたある男の姿を描く「蟲臣蔵」、討たれたはずの吉良上野介が生きていると言う噂から始まり、「不忠臣」とされた旧赤穂藩士たちが汚名を雪ごうと目論んだその事の顛末までを描く「生きている上野介」あたりがお気に入り。
『女人国伝奇』は、実在の人物を配した話の組み立てが見物。明治ものとはまた違った雰囲気の、虚実交えた展開の面白さばかりでなく、遊郭に身を置く女たちの美しさ・誇り高さ・煌びやかさ・そして哀れさをしっかり感じさせるところがまた憎い。中でも私が気に入っているのは「夜ざくら大名」。水戸藩のお家騒動を描いた話なのですが。序盤である人が出てきた瞬間ニヤニヤした程度の時代劇スキーです。その他、体調が思わしくない妻の出産費用を工面するべく、切られた小指を集めては何故かそれを高値で買い取る花魁のもとへ通う勝小吉(某幕末有名人の父親)が巻きこまれた騒動を描く「ゆびきり地獄」、男の身勝手のため遊女に身を落とした娘の悲運に鼠小僧を絡めた「蕭蕭くるわ噺」も印象に残ります。……ところで、何度か登場する花魁・薫は金蓮様@『妖異金瓶梅』と、本質的な何かがとてもよく似た人だと思う。いや、絵を巡って起きたある事件の顛末までを描いた「怪異投込寺」が強烈だったのでそんなイメージが残っただけかもしれませんが。