吸血鬼と人間の共存地帯『特区』と、そこに住まう吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ長編第10巻。
今回は一言で言うと、最終巻直前の舞台準備の巻だった印象。いや勿論、要所要所でおおおっ!となる描写はありましたが、事前に予想したほどテンションは上がらなかったなぁと。短編集で語られてきたカーサの変遷――「クロニクル」の締めくくりとなる香港前夜の物語が、大半を占めたのもいくらか影響があったかも?と思ったり思わなかったり。
香港前夜、何が起こったのか。ついに語られたその真相には、ただただため息をつくしかありませんでした。これまでカーサが抱えていたものを見てきただけに、初めて出会った「血族」を前にしてのあの選択は、とても責められないですよ……。でも、本当にあの時はあれ以外にどうしようもなかったのだろうと理解しつつ、アリスに別れを告げるシーンや仲間たちとの完全な決別を意識するところなど、切なくて仕方がありませんでした。そんな彼女の想いを受け、「始祖」となったアダム。彼ら乱を好むという「九龍の血族」も、その源泉を知れば一概に否定はしきれないのですが、現状では共存など夢のまた夢だろうし。かといって力で捻じ伏せられても哀しいし。それぞれの理由で月下の世界のはぐれ者となった子供たちを、父たる「導主」はどこに導くのか。せめて、彼らが納得のできる答えに辿りつけることを祈ってやみません。
過去から現在に時間を移して、「特区」奪還に向けて着々と準備を整えるカンパニーと、彼らの盲点を突いてある行動に出ようとする「九龍の血族」たちの姿、そして「乙女」として為すべきことをなしながらも「ただ一人」を待ち続けているミミコの姿が語られます。九龍側が打ってきた手になるほどと思わず唸り、まさにカンパニーが絶体絶命となったそのときに、ようやく帰還したジローの頼もしさときたら! 暴走する力を真銀をもって制御し、圧倒的な力を振るう彼の姿は威圧感すらありましたが、ミミコに対しての言葉は彼の変わらぬ心を示していて。そんなジローに応えて、「乙女」ではなくただのミミコとなって駆けだすミミコも、その心は何も変わっていなくて。それが、何より嬉しく感じられました。
さて、泣いても笑っても残り一冊。決戦の地となる特区に集いつつある人々は、彼の地で何を得るのか――あるいは失うのか。来月を楽しみに待とうと思います。