読書の夏、読了本の感想を一冊ずつ書いていくと時間がかかるのでひとまとめで。手抜きで済みません……。長くなったので、たたみます。
『わたしの名は紅』[オルハン・パムク(和久井路子:訳)/藤原書店]
十六世紀のイスタンブルで起きた細密画師の殺人事件を巡る物語。ノーベル文学賞受賞作家の本、ということで身構えていたら普通に面白いミステリだったのでびっくりした覚えがある。
西洋の絵画手法の流入に苦悩と葛藤を覚える細密画家たち、ある男女の関係の行方、当時の社会風俗など、内包された要素に手抜きがなく濃厚で、楽しめました。
『イスタンブール 世界の都市の物語』[陳舜臣/文春文庫]
題名の通り、その歴史的変遷などさまざまな要素を交えつつ、「イスタンブール」という都市について語った一冊。
現存する歴史的建造物についてももちろん触れられているので、読んでいると実物を見たいなぁという気分になってしまいます。……嗚呼、トルコに旅立てるほどの長期休みが欲しいorz
『コンスタンティノープルの陥落』[塩野七生/新潮文庫]
塩野さんの代表作の一冊。内容はまぁ、題名のとおり。ローマ人の物語も長さに見合う面白さがあるけれど、1冊でサクッと読めるこちらも手軽ながら面白い。
多様な視点で描かれているので、わりあい公平に読めるのが良い(まぁ若干西洋寄りではあるけど) 「あの街をください」の場面は何度読んでも興奮する。
『復讐、そして栄光(上・下)』[赤羽尭/光文社文庫]
マムルーク朝第5代スルタン・バイバルスの生涯を描いた小説。某新古書店で偶然見つけて、(少なくとも日本では)マイナー過ぎるよ!と思いながら大喜びで購入した。
十字軍やモンゴル軍を相手取って戦い、奴隷からスルタンにまで上り詰めていくその過程は素直に燃えます。それだけに、最後はそうと知っていても、切ない……。
『百年の亡国』[海道龍一朗/実業之日本社]
終戦後の憲法改正をめぐる物語。史実の分量が多めながら、思想的なものがあまり含まれていないので読みやすいと言えば読みやすい。
現代史は歴史の授業ではさらっと流されがちだけれど、かつてこういうことがあったのだ、ということを知るにはいい一冊だと思う。卵ご飯の場面は、ちょっとじーんとくる。
『宇喜多直家 秀吉が恐れた希代の謀将』[黒部亨/PHP文庫]
斎藤道三・松永久秀に並ぶ悪人とか中国地方の三大謀将とか、あまり良い評判が聞こえてこない戦国時代の武将の生涯を描いた作品。PHP文庫の中では比較的良作の部類。
ただの謀略家としてではなく、名より実を取る人として書いているという点では『野望将軍』に通じるものがあるかも。しかし、やりたい放題を貫いた『野望将軍』と違って最後はもの寂しい。
『破壊の女神 中国史の女たち』[井波律子/光文社知恵の森文庫]
中国史上に名を残す実在・架空の女性たちについて、当時の社会背景などの考察も交えて語る一冊。内容はコンパクトにまとまっていて読みやすい。
有名どころに限らずややマイナーな女性も取り上げられていて、なかなか良かったです。中国史を少し違った角度から眺めることもできるのもまた良し。
『英仏百年戦争』[佐藤賢一/岩波新書]
黒太子とかジャンヌ・ダルクとか、実はそういう有名どころぐらいしか知らないんだよなーというわけで手に取った一冊。なるほどーと思うことも多々あり、通史として普通に面白かったです。
ところでサトケンさんは小説よりも、これとか『ダルタニャンの生涯』とか真面目系なほうが面白いと思う。全く個人的な好みですが。
『鬼の橋』[伊藤遊/福音館書店]
平安初期の京都を舞台に、冥界とこの世を行き来する少年・篁が、出会いと経験を経て成長していく物語。
篁をはじめとする登場人物たちの背負うものが切なく、彼らの間に生じていく絆が温かい。そして終幕はとてもさわやかで、しみじみとした感動が残ります。
『鏡のなかの鏡 迷宮』[ミヒャエル・エンデ(丘沢静也:訳)/岩波現代文庫]
エンデの代表作の一冊。ただし、『はてしない物語』や『モモ』の作風を想像してると、戸惑うこと請け合い。
出口のない迷宮に迷い込んだような、悪夢の中でもがいているような。ぐるぐるぐるぐる、微妙に歪み歪んで連なっていく30の物語が実に奇妙な味わいをもたらしてくれます。
『漂泊の王の伝説』[ラウラ・ガジェゴ・ガルシア(松下直弘:訳)/偕成社]
前イスラーム時代のアラビアを舞台に、ある王国の王子が辿る数奇な運命の物語。ちょっと重めながらも、一人の人間の精神的な成長物語として面白かった。
嫉妬心から罪を犯した王子が償いの旅路の中で出会いと別れを重ねる中でどう変わっていくのか。ラストのまとめ方も好き。
「ローマン・ブリテン」4部作[ローズマリ・サトクリフ(猪熊葉子:訳)]は、最終巻を図書館に借りに行く時間がとれないので涙をのんで見送りにします。