『テンペスト (上) 若夏の巻・(下) 花風の巻』[池上永一/角川書店]

 琉球王朝を舞台に、龍が交わる嵐の夜に生まれた少女の数奇な運命を描いた歴史幻想物語。

 池上氏の作品は、面白いんだけどクセがあって心の底から好き!という具合にはなりにくい、というのがこれまでの印象だったのですが、これは素直に面白かった。全編クライマックスとばかりに突っ走る勢いと、これでもかというぐらいに盛り込まれた数々の山場、そして何より様々な側面をもつ物語そのものに惹きつけられ、一度読みはじめるともうページを繰る手が止まりませんでした。あと、思いっきり好き放題やってるのに、一つの王朝の衰亡を描いた歴史ものとしては最後まで真面目に語っているところも好印象。

 内容は、本当にいろんな要素が詰まっているので一言で言い表すのが難しいですねー。大国の間で生き残りを模索する小国の立場、国を行く末を真摯に案じる若者たちの苦闘、官僚同士の対立、後宮での権力争い、国家を乗っ取ろうと目論む外敵との闘い、刻々と迫る列強の影、そして波乱の中で生じては消えていく数々の友情や恋心……などなど。どれも手を抜くことなく語られるそれらに酔いしれて、読み終わったときにはもう満腹状態になってしまいました。
 登場人物の濃さは、もう流石のひとこと。主人公の真鶴=寧温は、その知性の高さや凛々しさもさることながら、二つの人格の舵取りや秘めた恋心に揺れる様子など、人間味があって魅力的な主人公でした。その他の登場人物は、真鶴の兄である意味全ての元凶(でも妹を庇うためにあれこれ骨折りもしてくれるので憎めない)嗣勇や寧温の同期でライバルの朝薫、真鶴と相愛ながらも幾度も引き裂かれてしまう雅博など、それぞれに魅力的な人物でしたが特に好きなのは真美那かなー。彼女の天然お嬢様具合には何度も笑わせてもらうと同時に心和ませてもらいました。後半戦での心のオアシスでした。マジで。あと、聞得大君=真牛の何やっても死なないんじゃないかこの人という生命力というか精神力?には、『シャングリ・ラ』のあの人たちとか『レキオス』のあの人とかをつい連想しましたが、流石に彼女たちと比べるとインパクトはやや劣るか(作中の暴走具合を記憶照会中)……いや、やっぱり強烈でしたね、うん。しかしこの人、よく考えたら相当悲惨な目に遭ってるはずなのに、なんで読んでて全くそんな気がしなかったんだろう。謎。

 終盤、登場人物たちがそれぞれの人生からそれぞれの選択をしそれぞれの結末を迎えていく、そのどれもがその人らしくて。切なさの中に、爽やかな風が吹き抜けていくような不思議な清涼感が残る、素晴らしい終幕でした。

作品名 : テンペスト (下) 若夏の巻
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著者名 : 池上永一
出版社 : 角川書店
ISBN  : 978-4-04-873869-9
発行日 : 2008/8/28

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