その点、太平洋戦争は、日本人ひとり残らずが、好むと好まざるにかかわらず、あえて指導者といわず、神か悪魔かの一本の指揮棒によって動かされることを、なんびともまぬかれなかった怖るべき時代である。――それでも、さまざまの記録を読むと、人々は千姿万態の様相を見せている。 ――「まえがき」(p.4)
「読書の夏」、リスト消化10作品目。太平洋戦争開戦日の昭和16年12月8日、そして終戦までの昭和20年8月1日から15日までの15日間。当時人々が何を考え、何をしたのか(あるいはしなかったのか)、当時の公文書や個人の手記など数多の記録を選り抜き繋ぎ合わせて、「太平洋戦争」を再現したノンフィクション。なお、作者評価は日記系と同じで「採点不能」。
開戦の日のいっそ無邪気なまでの高揚感と、敗戦の日に至るまでの惨とした日々。その中で生じる政治家たちの駆け引きやどんな状況でも営まれている一般庶民の生活など。それが主観的な日記であろうと「同じ日についての記録」という共通項で括られることで、単に「太平洋戦争」の一要素・一側面と化し、当時の混沌とした世相が客観的に多層的に浮かび上がってくる。その構成の妙に唸らされます。
感想を上手く言葉にできないのですが……ただの記録の羅列に止まらない、紙上に再現された「戦時」の静かな凄味に圧倒されることが多々。歴史の流れの中で生じた様々な「皮肉」に、なんともいえない思いがすることもしばしば。「事実は小説よりも奇なり」という言葉ではまだ足りない、「とにかく凄い」と思わされる一作。……下手に左右どちらにも意見が偏っていない分、この本から何を読み取るかも千差万別なんだろうなぁと、少ししみじみ思う。