昨年から細々と続けている、山田風太郎作品は面白いんだよーとWebの片隅で主張してみる企画。明治小説の感想はコンプしたので、あとはのんびり気が向いた作品の感想を書いていくことにする。で、今回は『外道忍法帖』。
内容はというと、ジュリアン中浦がローマ教皇より賜った百万エクーの金貨の所在を巡って文字通り「道を外れた者たち」が繰り広げる、凄惨な三つ巴の戦いを描いた物語。忍法帖でも屈指の殲滅戦・大量殺戮が行われる一冊としても有名。ちなみに作者自己評価は「B」。
この作品でまず目につく特徴といえば、やはり登場する忍者の多さ。金貨の隠し場所の手懸かりとなる15個の鈴を守る切支丹にしてくの一の「童貞女」15人、切支丹殲滅を目論む松平伊豆守配下で一族復興の悲願のため働く天草党15人、そして政府転覆を目論む由比正雪手飼いの甲賀忍者15人と、総勢45人の忍者たちが血で血を洗う戦いを繰り広げていくのですが……。なにしろ300ページほどの間にその戦いを詰め込んでいるものだから、ほとんどが名乗ったと思った数ページ後には命を落としていくという、登場人物に感情移入する間もない凄まじいスピードで数々の忍法勝負が消化されていくことに。それぞれの信念を持って闘いに挑み、そしてあっけなく斃れていく彼らの姿は崇高でもあり無惨でもあり。少し離れた位置から物語を眺める役割を担っている天真爛漫な遊女・伽羅には、この悲惨な物語の中の息抜きとしての作用も少なからずありますねー。ああ、あと冒頭の沢野忠庵(クリストファ・フェレイラ)による拷問場面は強烈です。いろんな意味で。
そして、忍者たちの屍山血河の果てに迎える終幕がまた凄まじい。ついにその姿を現す童貞女の指導者・マリア天姫。その本性と思惑が描かれるのは数ページのみであるにも関わらず、圧倒的な存在感があります。その彼女には敵わずとも、天草党首領・扇千代の最期の行動にも凄みはありますが……彼の場合はそれよりも、その行動に出る前の述懐に胸を打たれます。そして、極めつけのラスト一行。初読のときは本気で絶句しました。いや、冷静にみると確かに推測できる材料は揃っているけど、それでもまさかこれをオチにもってくるとは思わないって普通……。