山田風太郎明治小説全集の2巻目は、元南町奉行所VS警視庁(言い換えれば旧時代と新時代の対立か)による知恵比べが、思わぬ変化を見せていく『警視庁草紙』後編。
上巻では元南町奉行所の面々が幾度も警視庁を出し抜いていましたが、警視庁もやられっぱなしではなく。警視庁側がご隠居たちの存在を把握していくにしたがって、きわどいところまで追い込まれたりやむなく危ない橋を渡るようになったりと、上巻の時点では思っていなかった緊迫感を幾度も味わうことになりました。このあたりはなんというか、さすがに実際に権力を持っている側の強み、というところか。
また、連作短編という形式は上巻から変わりないものの、それを長編に転じさせるお得意の手法はこの作品でも用いられていて、いまだ不安定な世相の動きと、各短編に時にさりげなく時にあからさまに散りばめられた川路の思惑が次第に一つの方向性を示していくにしたがって、物語の様相も変化していき……最終的に浮かび上がってくる「日本のフーシェ」川路の凄味、そして終盤に一度だけ用意されていたご隠居と川路が直接会話を交わす場面は、何度読んでもその重みに圧倒されます。
そして、最終章。西郷の下野から始まった物語は、確かにここしかないと納得の場面で幕となるのですが……時代の流れの前に消えゆくもの滅びゆくものへの哀惜と、見送るものの諦観と悲哀など一言では言い表せないほど多くの思いを抱かせる結末に、ただ嘆息。