山田風太郎明治小説全集の1巻目。一連の明治小説群の開幕となった、記念作にして代表作でもあります。
物語の舞台となるのは、「江戸」から「東京」に名前が変わって間もない明治の御世。元南町奉行・駒井相模守信興(通称隅のご隠居)と元同心の千羽兵四郎らは、ひょんなことから大警視・川路良利率いる警視庁を相手に回し、様々な事件にかかわることになる……というもので、手法的にはお得意の連作短編。上巻は特に、単発の事件が起こっては、警視庁の手法が気に食わないご隠居たちがそれをからかうように様々な形でそれに関わってくる、というパターンが多いかな。警視庁の面々をあの手この手で出し抜く「江戸の生き残り」の面々の活躍が、なんとも痛快です。
また、後世に名を残す偉人たちのカメオ出演が明治物の特徴の一つでありますが、この作品は特に大物ぞろいな印象があります。冒頭が西郷が征韓論に敗れて下野するところというのが、その印象を強くしているのかも。その後も、政府高官から文豪、犯罪者等々、実在・架空を問わず様々な立場・思想の人物が次々と交差し紡がれていく物語は、まさに波乱万丈・豪華絢爛といった感じです。それにしても、井上馨はこうしてみるとやっぱり無茶苦茶な人だよなぁと思った(笑)
さて、元南町奉行所と警視庁の面白おかしい知恵比べが、果たしてどのような結末を迎えるのか。気になるところで、以下下巻。
作品名 : 警視庁草紙(上) 山田風太郎明治小説全集1
著者名 : 山田風太郎
出版社 : ちくま文庫(筑摩書房)
ISBN : 978-4-480-03341-3
発行日 : 1997/5