富豪の御曹司ながら、酒好きが高じて身代を食いつぶした暮葉左近。明日にはいよいよ無一文、これで酒を呑むこともできなくなる……と世を儚んだ彼は、これで最後とばかりに酒風呂に浸かりながらの自殺を試みる。そこをたまたま通りかかった仙人に命を救われ、さらには自分が千年に一度現れる「酒星のしるし」を身に帯びていると知らされる。これを持つものは、いずれその使命を果たすまで、酔って酔って酔いまくらなければならない。徳利真人として蘇った左近は、酒飲み修行に明けくれる日々を送ることになるが、やがて彼の前に邪悪な「魔酒」を醸す三島業造が現れて……。
第5回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。『カッパドキア・ワイン』読んだらなんとなく再読したくなったので引っ張り出してきた。ちなみにこの回の大賞は佐藤哲也『イラハイ』、最終候補作は小野不由美『東亰異聞』と恩田陸『球形の季節』。……つくづく、どんなレベルだ。
内容を端的に表現するならば、主人公をはじめとする登場人物たちが呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑んで呑みまくる話。いや勿論呑んでばかりというわけでもなく、合間にメインのストーリィも進んでいくのですが(←合間かい)、とりあえず呑んでる(しかも美味しそうな肴付)という印象が強いので(笑) 話の内容と雰囲気が、読んでるこっちもほろ酔い気分になってしまうようなものであることも手伝って、世界の命運(!?)を掛けた勝負ですらそんなに深刻にならずに楽しめてしまいます(つーか、勝負の方法そのものが風流という話もある)
そんなわけで気楽に楽しめる話である一方、古今東西の「酒」に絡んだものやそうでないもの、様々なエピソードや小ネタが織りまぜられていて、裏表紙に書かれているとおり「教養小説」としてもなるほどと納得してしまう出来。まぁでも、あまり難しく考えずに酒のつまみの蘊蓄話としてさらりと読めてしまうのがこの作品の稀有なところだよなーと思ったり。
……どうでもいいけど、改めてこの作者氏の「小説」を眺めてみると、だいたい呑んでるか食べてるかの話のような気がしてくる……。