短槍使いの女用心棒バルサの物語、文庫版第3巻。
前巻『闇の守り人』で精神的に一つの区切りがついたバルサは、今回はほぼ脇役。代わりに焦点が当たるのは、『精霊の守り人』で重要な役割を担ったタンダとトロガイ師。内容は思いっきり要約すると、人の夢を糧とする「花」の世界に囚われた人々を巡る物語、ということになるでしょうか。「夢」というものが重要な位置に据えられているためか、殺陣の場面もあるものの前2作と比べるとぐっと落ち着いた、静かで幻想的な印象を受けました。
優しい夢に囚われ、そこに留まっていたいと願う人の心の描写が切ない。そして、その心が自然なものとして理解できるからこそ、一度は夢に囚われても再び現実に向かう人々の強さがより鮮やかに映ります。
メインストーリィ以外でも、花に囚われた人々に感じたものとはまた違う切なさを感じさせてくれるトロガイ師の過去の話と「彼」との別れの場面、バルサとタンダの単純な言葉で表現するのが憚られるほどに強い絆、そして、皇太子として王宮に戻りながらも父帝との間に埋めがたい溝を感じているチャグムの立場など、いろいろと気になるエピソードが配置されていて楽しめます。
さて、このままのペースで順当に文庫化が進むなら、次は夏ぐらいにチャグム主役の『虚空の旅人』かな。とりあえず、楽しみに待とうと思います。
作品名 : 夢の守り人
著者名 : 上橋菜穂子
出版社 : 新潮文庫(新潮社)
ISBN : 978-4-10-130274-4
発行日 : 2007/12/21