最近また風太郎作品を再読してるので、そのままの勢いで感想も書いてみる。
この作品は題名からも一目瞭然なように、中国四大奇書の一つ『金瓶梅』を下敷きにし、新たに生み出された風太郎流『金瓶梅』。全15編に加え、ボーナストラックとして他版では未収録の「人魚燈籠」も収録した完全版。『明治断頭台』と並んで、山風ミステリの中でも傑作と評価を受けています。
中国は宋代、好色漢としても名を馳せている豪商・西門慶の館を舞台に、西門慶の親友・応伯爵がしばしば起きる怪死事件を解決していく連作短編集、と言えなくもないのですが、もう一つの特徴のほうが明らかにインパクトが強い(そしてその特徴はネタバレ直結なのであらすじ紹介では使えない) まぁとりあえず、第1話「赤い靴」のラストで明かされる、この作品世界であるからこそ許される真相と動機、そして結末に驚くべし。第2話以降もそれぞれに趣向を凝らしたミステリとなっていますが、この「様式」は共通したものになっています。下手をすれば駄作になりかねない仕掛けを使っているにもかかわらず、どれもが水準以上の完成度を誇っているのは流石の一言。作者自身が「意に満たない」と判断する「銭鬼」ですら、一読者としては「……どこが気に入らなかったんですか先生」と聞きたくなるし。
登場人物では、中心人物の一人で淫婦姦婦の名をほしいままにする潘金蓮がとにかく凄まじい。その存在感たるや、彼女の前には他の全てが脇役と化すほどで、もはや別格としか言いようが。紛れもなく毒婦であるとは分かっていても、読み進めるうちにふと気がつけばその魅力の虜になってしまっているのが不思議。あとは探偵役の応伯爵も良い味出してました。この人、本当にいろんな意味で駄目男なんですが、それでも最後に見せた男気と想いの深さには心打たれます。
フェチを通り越して変態的な愛欲と、一人の男を巡る女たちの嫉妬と憎悪が生みだす数々の犯罪を描いた物語は、『水滸伝』の英雄豪傑が本格的に絡んでくる「凍る歓喜仏」以降一気に長編に変化していきます。ラスト4章の怒涛の展開、急速な崩壊が生みだすカタルシスは強烈。一人の女を間に挟んだ男と女の対極的な行動、哀切極まりない終幕はこれまでの乱痴気騒ぎの後始末とでも言うべきか。酔いから醒めたような、なんとも言えない感慨が込み上げてきます。