魑魅魍魎が跳梁跋扈し、人間の骸から生える「汚木」を用いて「仏」を作る風習がある世界。幼いころに母を亡くし、伯父に育てられた少年・厭太郎は、あるとき仏師の娘・犬千代に仇討ちを申し込まれ、互いの仏を決闘させる「合」を行うはめになる。
第19回日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作。ここ数年の習慣どおり、今回も購入。
この2回ほどのファンノベ大賞は、面白いことは面白いのだけどどうも薄味というかクセのない作品が大賞を受賞するなー思っていたのですが、この作品は冒頭なかなかのはったりの効いた雰囲気で、期待値上昇。続いて主人公の厭太郎の境遇が語られ、さてこれを背景にどのような物語が展開されていくのかとワクワクしながら読み進めたら、いきなり格闘ゲーマーの話になったので唖然としました(いや、正確には格ゲーじゃないけど。でも、ノリがもうほとんど格ゲーだった)
で、その格ゲー的な仏同士の戦い「合」の部分に筆を割きすぎたためか、選評でも指摘されているように主人公も含めた登場人物たちの描写が薄くなってしまっていて、結果的に物語としてはバランスが悪くなってしまった印象。せめて厭太郎と犬千代の2人だけでももう少し深い心理描写がされていれば、クライマックスの「合」も気分的に盛り上がったと思うんですけど……激しい仕合なのは理解できるとして、そこにちゃんと没入できずカタルシスを感じられなかったのが残念。加えて、これは面白そう、と思った設定等もあまり突っ込んだ描写はなく、雰囲気作りの小道具的な役割に終始していたのもまた残念。
まぁなんというか、いろいろと惜しかったなーというのが正直な感想。しかし、作中に散りばめられたアイデアはなかなか面白かったと思うので、次回作には普通に期待することにします。