エジプト神話「ホルスとセトの戦い」をモチーフに、架空の古代エジプト王朝の王権を巡って繰り広げられる戦いと愛憎の物語、第4巻にして完結編。
3巻の段階ではまだもう少し続きそうな雰囲気だったので、4巻で完結となったのはちょっと予想外。大人の事情とかいろいろあったのかなぁと思いつつ、ページ増&行数増&二段組というあたりに作者氏の執念を見たような気が。ただ、それでもハルとセティに描写を絞らなければならなかったためか、他の登場人物に関してはもうちょっと詳細な描写が欲しいと思うところが多々あったのは正直残念。特に、ネブヘトがどういう経緯でセティに対する態度を変えたのかが知りたかったなー。3巻ではいささか軽薄で思慮が足りない女性という印象が強かっただけに、最終巻での格好良さは一体何があったんだと……。彼女に限らず、女性陣は皆たくましく、己の意思を貫いていた印象。
一方の男性陣。2巻まではもうどうしようもなかったハルですが、アンジェトの決定的な裏切りによって正気に戻ったあとは(あそこまでされないとわからないのか、という気もしなくはない)目覚しい成長も遂げて主役の面目躍如といったところでした。セティは……本人がそれなりに満足する結果だったろうことが救い。逆にネフェルは、ようやく彼にも人並みの幸せが!と思っていただけにあの展開は悲しすぎ。あと、アンプが3巻のセティ並(考えようによってはそれ以上)に悲惨なことになったのは衝撃でした。散々苦労した末にアレというのがなんともかんとも。
ともあれ、タ・ウィを揺るがした動乱は数々の傷を残しながらも終結。古の掟はあるべき姿を取り戻し、新たな王の誕生によって物語は終幕と相成ります。鉄の時代の到来が近いことが予告されているだけに、安穏とした時間はそう長くはないかもしれませんが、それでも彼らの生があるうちは平和な時を享受できていればいいな、と思います。
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