壇ノ浦で入水した安徳帝が、神器の力によって琥珀状の玉に封じられ漂い行く先を描いた『安徳天皇漂海記』。その奇想に連なる4つの物語を収めた作品集。
『安徳~』の系譜ということで、今回も伝奇色薄めの歴史幻想譚でした。『安徳~』に比べると幻想色もやや薄めかも。
ただ一つの奇想――彼の島のモノに繋がる不可思議な玉によって結ばれ語られる、「廃され追われ流された」4人の帝王。端正な筆致で綴られるそれぞれの滅び、あるいは消え行く姿に、言葉にされる以上の悲哀と情趣を感じます。
中でも気に入ったのは1話目と3話目。1話目は明朝によって北に追われたトゴン・テムル、あるいは順帝と呼ばれる大元モンゴル国皇帝の話(余談ながら、ちゃんと「ダイオン・イェケ・モンゴル・ウルス」とルビがふってあるのに地味に感動した歴史オタクがここに一人) 寂寥感に彩られながら、それでも奇妙な清々しさを感じる読後感が秀逸。3話目は明朝最後の皇帝、崇禎帝を描いた話。「亡国の皇帝」という部分は1話目と共通するものの、こちらはただひたすらに悲痛。それだけに、彼自身は知らずとも最後に成された奇跡に多少は心が慰められたような気がします。……それにしても、最後にちょっと出てきただけの摂政王ドルゴンがやたら格好良かったなぁ(惚) 他、最盛期の名君であるにも拘らず簒奪者として拭えぬ影を背負わされた永楽帝、承久の乱に破れ流された隠岐で神変と対峙する後鳥羽上皇の物語も、それぞれ深く、魅力的でした。
信者補正が入っている点は否めませんが、端麗・優美な物語に酔いしれました。次は伝奇か幻想か。どんな作品が読めるのか今から楽しみです。