『村田エフェンディ滞土録』[梨木香歩/角川書店]

私の スタンブール
私の 青春の日々
これは私の 芯なる物語          (p.220より)

 来月文庫版が発売されるから、それを待って感想書こうかなーと思ってたのですが、公式サイトで公開されたカバーがどうにもイメージと違っていたのでハードカバー版再読して感想。(←カバー画像使ってないんだから関係ないだろ)

 エルトゥールル号事件後に両国の友好関係を深めようと土耳古(トルコ)皇帝が日本人留学生を招くこととなり、選考の結果白羽の矢が立った村田青年。彼の現地での日々を綴った記録――ということで、『村田エフェンディ(=日本語でいうところの「先生」というぐらいのニュアンス)滞土録』というタイトルそのままな内容。ちなみに、絶対読まなければ駄目というほどではありませんが、別作品『家守綺譚』とのリンクが少々あります。というか、最終章であちらの登場人物が出てくるのでやっぱり『家守』も合わせて読んでおいた方がいいかもしれない(どっちだ)
 それはさておき、物語は村田の下宿先で働く土耳古人の下男・ムハンマドが鸚鵡を拾ってきた場面から始まります。この下宿には他に、英国出身の女主人・ディクソン婦人、独逸人で考古学者のオットー、希臘(ギリシャ)人で発掘物研究家のディミトリアスが暮らしているのですが、話が始まった時点で村田が留学してからある程度時間が経っているため、彼らとの関係もある程度出来上がっている状態。そこから彼ら4人と1匹が、時には反発ながらも相手の価値観を決定的に拒絶はせず共同生活を営んでいく中で、あからさまな出来事や描写はなくても互いへの理解と絆を深めていく過程が読みとれて、なんだか穏やかな気持ちになります。
 時に友人と連れ立って出かけ、時にこの地を訪れた日本人たちと交流し、時になぜか周囲に集まってくる「神様」の起こす騒動に悩まされ(この手の不思議がまぁあることだよな、というノリで許容されてるのは、さすが『家守』と同一世界という感じ)たりしながら過ごした日々。特に事件らしい事件が起こるでもない何気ない日々の記録ですが、作中でもしばしば感じられる不穏な予兆ともあいまって、その何気なさこそが何よりもかけがえのないものとして染み入ってくる感じ。

 しかし、そのかけがえのない日常は、突然決まった村田の帰国や不穏さを増していく国際情勢の中で一つ、また一つと失われていき――。終盤、ディクソン夫人から村田の元に届けられた手紙で、その人のことが、その地名が出てきた瞬間、彼の国に残った彼らの運命を悟らざるを得ず。そこからは覚悟を持って読み進めたにも関わらず、実際に語られた時には思わず天を仰ぎたくなりました。そして、彼の地より村田の元に想い出として届けられた、鸚鵡。いつも絶妙のタイミングで言葉を発していた、しかし夫人からの手紙では「鳴かなくなった」はずの鸚鵡が、村田の言葉に対してあまりにも切なくガツンとくる一言を発し……前後の村田の行動と合わせて、ただ涙。

作品名 : 村田エフェンディ滞土録
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著者名 : 梨木香歩
出版社 : 角川書店
ISBN  : 978-4-04-873513-1
発行日 : 2004/4/27 → 2007/5(文庫化)

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