平安京を舞台にした、しっとり味わいのある陰陽師モノ、約4年ぶりの新刊となる第5巻。あとがきで「地味であっても滋味のあるお話を」と作者氏が語っていますが、その言葉が本当にしっくりとくる感じ。「空ノ鐘」も面白かったけど、私としてはやっぱりこのシリーズの方が好みだなぁ。
今回は、依代として安部晴明の体を狙う妖に、晴明の妻・梨花と息子の吉昌、そして偶然泊まりに来ていた時継が攫われてしまったことから話が進みます。そんな展開ならいくらでも派手な話になりそうなのに、あくまで人の情や想いに焦点を当てる落ち着いた話に仕上げてくるのがこのシリーズらしくて嬉しい。
で、ひょんなことから始まった酒盛り中、突如出現した「天一」という名の大妖。最初は、情の欠片もないのかと思ってしまう振る舞いに眉をしかめてしまいましたが、保胤によって示された真情を踏まえると途端に表現が苦手なだけの憎めない人に思えてくるから不思議。終幕で時継と酒を飲み交わす姿や「息子」に対する反応には、胸がほっこり温かくなりました。
一方、進展具合が気になる恋愛模様。保胤と時継の関係は相変わらずのようで……まぁ、このじれったさもらしくて良いですが、ちょっとは吉平の積極性を見習えばいいのに、と思わなくもない。それでも、少しずつは動いている2人の関係がどういう過程を辿ってどういう決着を迎えるのか、楽しみの一つですね。
年に1冊のペースで十分だから、今後も定期的に新刊が発売されることを切に願います。