「短槍使い」の異名で名が知られている女用心棒のバルサは、新ヨゴ国の第二皇子チャグムが河に落ちたところに偶然居合わせ命を救ったことから、彼が背負わされた奇妙な運命に深く関わることになる。100年に1度卵を産むという精霊・ニュンガ・ロ・イム〈水の守り手〉の卵を産みつけられニュンガ・ロ・チャガ〈精霊の守り人〉となったチャグムを、父である帝はその威信を守るため直属の密偵である〈狩人〉に命じて捕らえようとする。さらに、ニュンガ・ロ・イムの卵を喰らおうと人間たちの暮らすこの世(サグ)と重なり合って存在する世界(ナユグ)の生き物、ラルンガ〈卵食い〉も動き出すのだった。
新刊が少ない時は既刊の感想を書こう企画・第2弾。現在最終章(全3巻予定)刊行中、4月からのアニメ化も決まったことで一般知名度も上がるだろう児童文学の傑作ファンタジー、「守り人」シリーズ第1巻。ちなみにアニメ化に合わせてか昨年末に軽装版が発売。漢字の比率が増えて大人も読みやすくなりました(……でも、『狐笛』文庫化がありならこれも文庫化して欲しかったなーともちょっと思った)
「今年30」と児童文学にしては珍しく高年齢に設定されているバルサは、描写の端々から確かにそれだけの年月を重ねてきたと納得させられる腕前と落ち着きを備えた女性。彼女という主人公そのものが、物語にしっかりとした存在感を与えてくれている印象。一方、もう一人の主人公といえるチャグムは、バルサとはまた違った若さゆえの柔軟性が魅力。優しくも厳しいバルサや、バルサの幼馴染で呪術者のタンダ、タンダの師匠でもある賢者トロガイと共に過ごす中、彼が精神的に大きく成長していく姿は、王道ながらもやはり良いと感じます。その他お気に入りなのは、脇役のはずなのに妙な存在感があるというか、新ヨゴ国側最大の功労者といっても異論は出ないだろう星読博士のシュガ。原住民ヤクーの知恵すら修めようとする熱意には素直に感心します。
登場人物の魅力もさることながら、話そのものも面白いです。チャグムを追っ手から守る中、タンダやトロガイの知識、そして原住民ヤクーの伝承によって次第に明らかになっていくニュンガ・ロ・イム〈水の守り手〉の役割。都でシュガが読み解く過去の記録から明らかになる、新ヨゴ国建国の祖であるトルガル帝の水妖退治伝説の中で歪められた箇所。何気ない歌や習慣に隠された重要な手がかりなど、様々な要素が次第に一つの流れを作っていく展開は先が気になって飽きないし、バルサと〈狩人〉との殺陣や、終盤のラルンガ〈卵食い〉との死闘も迫力・躍動感があって読み応えがあります。
ニュンガ・ロ・チャガ〈精霊の守り人〉としての役割が終わり、バルサとチャグムに訪れた別れの時。チャグムは何も知らずにいた頃とは違う視野を持って王宮に戻り、自らの過去を見つめなおすことを決めたバルサは長く離れていた故郷へ足を向ける。この先二人の前にはどのような運命が待ち構えているのか、それはまた別の物語で語られます。