『桜行道』[佐島ユウヤ/講談社X文庫ホワイトハート]

 今月は新刊購入予定が少ないので、唐突に既刊の感想(兼紹介、あるいは布教)を書いてみる。
第一回目(?)は『桜行道』。妖を見ることが出来る青年・城戸藤也がひょんな縁から天狗の周平の故郷を目指すことになり、さらにその旅の途中で遭遇する様々な出会いや出来事を描いた連作短編集。

 藤也自身の能力や同行者の影響なのか、彼らが旅の中で巡りあう事件は妖が絡むことが多いのですが、その割にどの話も地味な印象。ただ、作品全体を包む淡々とした雰囲気は漂泊を続ける藤也の立ち位置を示しているようにも思えるし、収録されている各話は様々な縁が描かれていてなかなか読ませてくれますし。全体的にしっとりしんみりとした味わいのある作品集で、結構お気に入りです。
 収録作で一番のお気に入りは、4話目の「石蹴り鬼」ですね。藤也の前にほんの一時見えた、愛しく懐かしい人の幻影。触れ合うことはできても噛みあうことのない会話、そして、泣き笑いの顔で呟かれた心からの言葉。藤也の抱える事情もおおよそ明らかになって、その上でのこれはちょっと切なすぎました。終わったあとの周平との会話もまた、なんとも言えない雰囲気がありましてねぇ……。次点は5話の「楓の高僧」。周平が己の住処を見失うことになった原因や故郷に戻った時の言葉、作中で絡んできていた男が迎えた結末など、それぞれの想いが押しつけがましくもなくスッと伝わってきて、良かったです。そして、藤也と周平の別れは、ああ彼ららしいな、と思っていたら……そう来ますか、と(笑)

 旅の終着点が何処になるのか、あるいは何時になるのか。それまでは変わらず流れていくのだろう姿が目に浮かぶよう。あとはただ、藤也の行く先に幸いがあることを祈るばかりです。

作品名 : 桜行道
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著者名 : 佐島ユウヤ
出版社 : 講談社X文庫ホワイトハート(講談社)
ISBN  : 978-4-06-255720-7
発行日 : 2004/2

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