ハヤカワ・ミステリーワールドから発売の、真瀬もとさんのハードカバー第2弾。個人的に真瀬さんの作品は合う合わないの差が大きいのでどうかなぁと思いつつ、とりあえず購入。
物語の舞台は禁酒法時代、トーキー映画が世に出始めた頃のアメリカ。叔父を介して持ち込まれた依頼――勤め先の主人が育てている子犬を人気女優に届けるために英国から渡米したメイドのケイト。しかし、当の女優が殺害され、おまけに彼女自身も容疑者に。叔父の助けでとりあえず疑いは晴れたものの、様々な事情から犯人探しをすることに、という展開。
今回の話はなかなか面白かったです。「蔦のよう」と作中で評された女優の、作中で徐々に暴かれていく狂気。それがどのような形で登場人物たちに影響を与え、事件を引き起こしたのか。正直、ミステリとしてはそれほど凝ったトリックがあるわけでもなし、悪くはないけど普通、という印象ではありますが。主役をはじめとする登場人物たちが割とキャラが立っていて良い感じで、それだけに、それぞれの身勝手な思いの結晶ともいえる事件の展開とその真相にはなんとも言いようのない気分にさせられました。……しかし事件の真相よりも読んでてうわーと思ったのは女優が執着し続けたある人物の最後の言葉。彼女にとっては本当に女優はそういう存在だったのだろうけど、それにしてもあの一刀両断っぷりは容赦がない。
一方、事件と平行して語られていたのは、ケイトと叔父の「元警部」ことエドの関係。叔母の事故死後、職を辞し、娘のアリスをケイトの家族に預けて行方知れずになっていた元警部。「人間の顔に興味がある」と言い、写真家として生計を立てているこの叔父を何とか英国に連れ戻そう、せめて娘に一目だけでも会って欲しいと説得するケイト。その結果がどうなるかは、まぁお楽しみということで。とりあえず、最後のエドの告白を受けてのケイトの意思には「この娘、やっぱり良い娘だなー」と思いました。