レーベルに多大な不安を感じつつも、やはりタイトルの魅力に抗えず購入した作品。だって、「蒼狼」とくればどうしてもモンゴルを連想しますし、自分が好きだったり興味があったりする時代を扱われていれば、やはり歴史オタクとしては手を出したくなってしまうのですよ。うん。ついでに書いておくとこの作者さん、これまでは古代日本史をネタにした作品を書かれてる方ですね。
さて肝心の中身は、といいますと。タイトルからモンゴル・ウルス建国期か、バトゥのヨーロッパ遠征あるいはフレグ西征あたりの話だろうと予想していたのですが、予想を大きく裏切って、呼韓邪単于とシツ支単于の対立という匈奴の分裂期を題材にした作品。……マイナーだ……。あ、ちなみに、BLではありませんでした。
話の中心にいるのは3人の若者。天神の巫女姫・阿沙那(アシャナ)と、彼女の許婚で呼韓邪単于の跡取りである迦連都特(カレントトク)、そしてカレンとはいとこ関係になる波留且テイ(ハルショテイ)。共に草原の平和を望む彼らですが、そんな思いもむなしく漢の謀略や周囲の思惑など様々な要因によって歩む道は次第に分かれていき――。大きな流れに呑まれ、あるいは抗おうとしつつ辿った日々の軌跡は、時に悲嘆に満ちたものではありましたが、それでも最後に西へと向かった彼らの姿は敗残の兵ながらも希望に溢れていて、眩しく鮮やかな印象を残してくれます。それにしても、作者自身後編のあとがきで書いておられますが、カレンが本気で気の毒な役回り過ぎるんですがこれ。読んでて不憫で仕方がない……とか言いつつ、三角関係の描写が足りない!と思ったりもする私(鬼)
まぁ正直、「この辺りもう少し詳しい描写が欲しいなー」と思うところも多々ありましたが、それでも全体的にはなかなか満足な作品でした。次回作はどんな作品になるのか。歴史ものならどの時代を扱うのか。いろいろ楽しみにしつつ、気長に待ちたいと思います。