中原の小国・雍台第一王女として育った阿燐。しかし、実は彼女は先王の忠臣の遺児であり、母がのちに王に召されたことで王女の地位を与えられたに過ぎなかった。若くして即位した兄の双、そして愛らしく無邪気な妹・可籃と違って王室の血筋ではないことに引け目を感じつつ、聡明で気丈な王女として日々を過ごしていた阿燐だが、ある日彼女の運命を大きく動かす出来事が起こった。新興国・趨几が和平の条件として、王女の一人側室に迎えたいと申し込んできたのだ。「5年たったらお前を必ず迎えに行く」。秘かに想いを寄せる兄王の言葉だけを信じ、自ら志願して趨几国へ向かった阿燐だが――
先日本の整理をしていたときにふと目に止まったので、久々に再読してみた。何年前の本を引っ張り出して来るんだよというツッコミがどこからともなく聞こえてきそうな気がしつつ、折角なので簡単に感想。あ、別に近年WHでデビューした某作家さんに含むものがあって取り上げるわけではありませんので(それなら、あれが出た当時に感想書いてるし)
一言で言えば、一人の女性の愛とその愛が彼女自身に破滅をもたらす様を描いた話。終幕に至るまで、ヒロインである阿燐の恋路には全く救いがないのが素晴らしい。全体的に救われない雰囲気が満ちた作品の中で安らぎになっているのが、阿燐が人質として嫁いだ敵国一家との交流というのが徹底しているのもまた素晴らしい。つーか、阿燐がせっかく穏やかな生活に傾きかけても、(そんなつもりはないとはいえ)わざわざ彼女の心から理性と正気を追い出そうとするかのような知らせばかりをもたらす故国は、疫病神以外のなんでもないと思いますよ本当。
そして、彼女が決定的に道を踏み誤ってから描写は、哀れさを感じつつもやや寒気が。表面的にはものすごく冷静なんだけど、でもどこかが決定的に壊れてしまってる人ほど怖いものもないと思う。
ダークエンドとしか言いようのないあの結末は、阿燐には満足なものだったかもしれないけれど、引き起こされた無益な戦やあとに残された人たちの気持ちなどを思うと気分が沈みます。特に兄上は、間違っても弁護しようとも思わない人なんだけど、それでも作中に記された血を吐くような言葉が、ねぇ……